旅行日記100325

Corneille-Brecht起床。
ホテル前の薬局。
しばらく前からの腹痛や体の状況を詳しく説明。ガストロではないかとの疑いを伝えると、薬剤師さんも同意する。
先にもらっていたゲ止めに加え、胃薬、アンチ・ヴァイラスを処方してもらう。
ノートルダム・ドゥ・ロレット前の階段に座ってさっそく飲む。
このアンチ・ヴァイラスが効いたようで、あれほど悩まされた胃痛と胸焼けがこの日を境に次第に消えていきました。

まだ少し時間が早いが、夜に上映のある映画チケットを買うためポンピドゥーへ。
10時ごろ到着。
11時からの開場なので、もうしばらく周囲をブラブラして街の雰囲気でも楽しもうかな、と思っていたところ、日本人ですか、と声をかけられる。
大学生のIくん。
ああ、はい、そうですよ~、とかいろいろ話していると、何する予定ですか、映画見るんですか、チケット買えるかどうか聞いてきてあげましょうか、と、ビュンビュン話が進む。

もともと周囲に流されやすい典型的日本人体質なわたしである上、今は病気で気力も弱まっているので、なんとなく流されてみる。
警備員の人に尋ねに行ったIくん。
11時から買えるみたいですよ、という返事をもらってきてくれました。
この行動力と自分の等身大の実力をさらしてまっすぐ勝負しようとする(それが実は全く勝負にはなっていない場合でも)素直さは見習わないといけないなあ、と感心する。

大学生なんだ、とこちらが驚くと、年上に見られちゃうんですよね~、ってな感じで、同世代トーク(笑)を楽しむ。
北九州出身だと言うので、あ、青山真治という映画監督がいてね、という話を何となくすると、大ファンだと言う。
『ヘルプレス』『エリエリ』『サッド・ヴァケイション』など、どれも大好きだと。

おお!とか思っていると、ボクも大寺さんと一緒に映画見ようかな、パリで一本は映画見ようと思ってたんですよ、どんな映画ですか?と聞かれる。
いや、うーん、簡単に言うと、何人か人が出てきてただしゃべってるだけの映画なんだけどね。
ジャンルは何ですか?
うーん、アートかな、強いて言うなら。
物語はどんな感じですか?
それは難しい質問だなあ…。
監督はどれくらい有名な人ですか?
うーんと、ジャン=マリー・ストローブという監督さんで、すごく有名なんだけど、まあ、映画好きな人の間では有名って感じで、ゴダールって知ってる?
知りません。
そっかと思い、いや、正直オススメしないよ、他の映画見に行った方が良いかも。でも、覚悟決めてみるなら、他ではできない体験ができるかもね、なんて答えておく。

さらに雑談。
映画の話はこっちが気詰まりなので(笑)、なんとなく旅行話に話題を転換させようとする。
ホテルはどこ住んでるの?
※※あたりです。大寺さんは?
わたしはモンマルトルの方。
あ、もしかして『アメリ』?
ひー、いやいや、そんなことないんだけど(恥)。
オドレイ・トトゥって知ってます?ボクは彼女の映画がすごく好きで…。

結局、一緒にチケットを買い、夜また会うことにしてその場は分かれました。

ランチを手に、いったんホテルに戻る。
部屋の移動に伴うあれやこれやの作業。
昨日から7連泊でこのホテルに泊まっているのですが、最初の一日はホテル側の都合でシングルが空いておらず、3人部屋に入れられていたのです。
ま、料金同じだから良いですが、荷物広げることができず、それがやっかいでした。
新しい部屋で日用品をしかるべき場所に配置し、ようやく少し落ち着く。
仕事あれこれ。

夜。
ポンピドゥー地階にあるcinema2へ。
Iくんがすでにいる。
列がもうできてますよ、なんか雰囲気がすごくて、ボク、場違いな感じで怖かったんですよ。

いやいや、場違いを恐れずチャレンジするIくんの意欲と行動力はとてもすばらしい。
人間に場違いなんてないです。
そんなこと考えつつ他人を白い目で見て閉め出して、自分たちだけのスノッブな閉鎖的空間作るような奴らは、しょせん馬糞のようなものだから!
道ばたに転がしておけばそれで良いから!
キミはそんな馬糞連中よりも遙かに人間として優れていると本気で思います!

そうこうするうちに開場。
いつものように、左手の前から3番目あたりに席を取る。
トイレ。
もどってくると、今回、いろいろパリ情報・映画情報・ガストロ情報を教えてくださったTさんが会場に来ていて、Iくんと話してる。

え?
確かに友達待ってるとは言いましたけど、面識ない筈だし、何故????
などと疑問に思いつつ、メールのやりとりはあったもののこれが初対面であるTさんとご挨拶。
大寺さんとIさんは昔からのお知り合いなんですか、と聞かれる。
いや、朝会ったばかりです。
恐るべし、I君。

あっという間に満席。
ただし、わたしの一つ前の席が一個だけ空いてる。
あれれ、これはもしかして…、と思ってると、ジャン=マリー・ストローブ監督本人が登場。
会場を見渡し、わたしの真ん前に座る。
その直前、ボクシングするような至近距離でしばらく見つめ合ってしまいましたが、あれはおそらく、おやおや見知らぬ日本人がオレの映画を見に来とるな、くらいに思われていたんでしょうね。
ここは一つ、日本人らしく、ややあってからそっと目を伏せておきました。
いやあ、普通に敬意を感じたからなんですが。

今回の上映は、「Cinema du Reel 2010」という映画祭の一部で、そのため特集のセレクトを担当した方などから、企画の意図などあれこれ話がある。
進行はこんな感じで、と話していると、いやあ、全部一気にやっちゃった方が良いよ、などとストローブからの突っ込みが。
一同、爆笑。
あっという間に会場の空気を自分のそばに引き寄せる。
自作の上映に立ち会うという雰囲気ではなく、ストローブの元に参じた私たちがストローブ自身から彼の映画を見せていただくという感じ。
人の心をつかむ力がハンパない。
すごい爺さんです。

上映開始。
ジャン=マリー・ストローブ監督の最新作。
「Corneille-Brecht」。
一人の女優がコルネイユとブレヒトのテキストを読み上げる。
光の手触りがハンパない。
声も光もテキストも、すべてが明らかにそこにあって、まるで手を伸ばせば実際に触れることができるとしか思えない。
ストローブの作品はいつもそうですが、いったいこの素晴らしさをどのようにして言葉に表現すればいいのでしょう、などと普段なら悩むところですけど、いまは普通の観光客としてここにいるので、そんなことは全く考えず、ただひたすら映画を楽しむ。

上映後、主演女優が登場してあれこれ質問に答える。
彼女の映画だから、と言ってたストローブだったが、いつの間にか、当然のようにやりとりの中心になっている。
観客席前をうろうろ歩き回り、壁にもたれたりスクリーンに向かって歩いたり。
質問があると、その質問者の方にトコトコ歩いていって、まっすぐ相手と向かって一対一のように話をする。
ただし、そのすべてがもちろん一つのパフォーマンスとして、それも極上のそれとして計算され尽くされている。
質問をはぐらかしてみたり、冗談言ったり、まぜかえしてみたり、相手の質問意図を逆に問いかけてみたり。
爆笑に包まれているうち、気がつけば、そのすべてが実に真摯な自作の解説にもなっている。
本当にすばらしい!
『バットマン・リターンズ』のペンギンとコロンボを足して、2で割らずにそのまま200倍くらいした感じの濃厚さ。

議論の内容自体は、たとえば東京のイベントなどで様々な論者によって指摘されるものと大きな違いはないですし、質問などにしてもそうです。
変わりはない。
こうした部分では、東京とパリに格差があるとは思いません。
ただ一つ、決定的に違うのは、そこにストローブがいるかいないか。
これはもう、どうにも越えることのできない、決定的な壁だとしか思えません。
ストローブ自身がそこにいることによって、彼の人間性に直接触れることによって、わたしたちが得ることのできるものはあまりにも大きいのです。
そこから伝わってくるものは、あまりにも貴重であり、あまりにも美しく、あまりにも明白で、あまりにも懐が深い。
それは、彼自身の作品と全く同じです。

したがって、逆に言えば、ストローブの作品をまっすぐ見つめていれば、そこから彼の人となり、あるいはこうしたパフォーマンス的な部分も十分に汲み取ることができるわけですけど、しかし、わたしたちの目は間違いやすく、わたしたちはすぐあまりにも深刻になりすぎてしまう。
いや、映画も世界も深刻なものであるのは間違いないのですが、それはしかし、深刻な自分に酔うような過剰な自意識の戯れとは全く無縁のものであるはずです。
むしろ、観客とのやりとりを楽しみ、私たちすべてを爆笑で包む、あのストローブ自身のユーモアのように映画とは深刻なものなのだ、と言われるべきでしょう。

続いて、「Operai, contadini」。
『労働者たち、農民たち』の題で、日本でも上映されています。
わたしも、これが3回目。
最初、席を立ってどこかにいなくなったストローブですが、半分ほど過ぎたあたりで席に戻ってくる。
ややあって、自作を見ながらブホホホと笑い始める。
役者の台詞を一緒に暗唱したり、ぐちゃぐちゃコメント付けたり、また爆笑したり。
たぶん、製作準備段階からはじめて、もう何回見たか分からないほどの自作であるはずなのに、ものすごく興味深く、誰よりも新鮮に映画を楽しんでる。
これは、とてつもないことだと思いました。
挙げ句の果てには、葉巻に火を付けてスパスパはじめるし(笑)。
いやあ、映画館って禁煙じゃなかったっけ?(笑)。
煙、わたしの席にモロ流れてくるんですけど(笑)。

ストローブ自身がこんななんですから、わたしたちもまた、彼の映画をできるだけ楽しめばそれで良いんです!
楽しく見るのが一番!
ストローブ作品はかく見るべし!とか、しかめっ面して人に高みから説教するような連中なんて犬に食われてしまえ!
…とは言いませんけど(笑)、でも、やっぱ違うんじゃないかな、って、心の底から改めてしみじみ思いましたよ。

上映後、こんな容赦ない作品を最後まで見てくれたあなたたちは最高の観客だと思う、とても感謝する、との監督からのコメント。
そして、またまた独演会が始まる。
むちゃくちゃ楽しい。
むちゃくちゃ凄い爺さんだ!
時間切れ。
しかし、近所のカフェで延長戦やるよ、との言葉。

終映後、Iくん、Tさんと別れ、ホテルに戻る。
Tさん、いろいろありがとうございました。
感謝!
Iくん、なんだか不思議な経験だったかもしれませんが、なんか妙にインパクトのある、不思議に楽しい経験として後に思い出してもらえるようなら嬉しいです。

いやあ、それにしても…
ホント楽しかった。
ストローブ、サイコー!!!

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