グレイ・ガーデンズ!

grey_gardens_01『グレイ・ガーデンズ』Grey Gardens 1975
監督:メイズルス兄弟

『グレイ・ガーデンズ』Grey Gardens 2009
監督:マイケル・サシー
出演:ドリュー・バリモア、ジェシカ・ラング、ダニエル・ボールドウィン

『グレイ・ガーデンズのビール母娘』 The Beales of Grey Gardens 2006
監督:メイズルス兄弟

基本的には、ゴミ屋敷に住む2人の老婆の話と思ってもらって良いです。
そのドキュメンタリー。
とんでもなく大きくて、とんでもなく荒れ果てた古い屋敷の2人の母娘。
修理屋の若い男の子ジェリー以外、訪ねてくる人も殆どおらず、無数の猫と、崩れ落ちた壁の中に住み着いたアライグマに囲まれて暮らしている。

…と書くと、それはまた一体どれほど悲惨な話だろうと思われるでしょうし、実際、『何がジェーンに起こったか』を連想させられないわけではないのです。
孤独に暮らす2人の老女。
過去の栄光を伺わせる周囲の事物。
ときにちらつく狂気の影。
そして、あまりにも悲惨な現状。

ところが、この映画の本質は、観客のそうした憶測とは全く逆の部分にあるのですね。
とにかく、彼女たち二人があまりにも天真爛漫で、あまりにも魅力的。
あまりにも明るく、そして、あまりにもとげとげしい。

PDVD_130カメラがあってもなくても同じだと言うことではありません。
しかし、カメラがなくても毎日同じように何千回と繰り返していたであろう彼女たちの会話、喜びと苦しみと怒りと楽しみをそのまま反映した彼女たちの会話を、そっくりそのままカメラの前で、しかもカメラがそこにある事実によって一層の喜びを加えつつ、繰り広げて見せてくれるのです。

この2人は、”リトル・イディ”・ビールと”ビッグ・イディ”・ビール。
映画の中で明かされますが、実は正真正銘のセレブです。
ジョン・F・ケネディの妻であったジャクリーン・ケネディ・オナシスの親戚。
子供の頃から何不自由なく育ち、歌とダンスと絵画と男たちの羨望のまなざしの中で暮らしてきた毎日。
ところが、ビッグ・イディの離婚と当時アメリカを襲った大恐慌の中、倹約という言葉を一切知らない彼女たちの生活は次第に困窮していく。

ニューヨークで女優になりたかったリトル・イディを呼び寄せ、母娘は「グレイ・ガーデンズ」と呼ばれる屋敷に引きこもってしまいます。
しかし、生まれてから家事というものの一切をやってこなかった二人。
二十年の間に、家は荒れ果て、ゴミはたまり、猫は増え続け、アライグマの糞は床に散らばる。
ついには、近隣からの苦情によって新聞沙汰になるほど荒れ果ててしまいます。

grey_gardens_02そんな彼女たちに興味を持ったのが、アルバートとデヴィッドのメイズルス兄弟。
二人は、グレイ・ガーデンズにカメラを持ち込み、母娘のドキュメンタリーを撮ります。
ニューヨークで女優になりたかったリトル・イディにとって、それはもちろん願ってもない話。
自らが作り上げてきた儚くも美しい夢の全てを、カメラの前で一気に披露します。

そしてさらには、彼女、ほとんどメイズルス兄弟と恋に落ちてしまうのですね。
いや、よく比喩としてカメラが女優と恋に落ちるとか言ったりしますけど、そんな生やさしいものでは一切ありません。
なにせ、リトル・イディ、マイクを握るデヴィッドとカメラを構えるアルバートを交互にじっと見つめながら、イニミニマニモ(どちらにしようかな)とかやっちゃったりするんです。
で、そのまなざしがあまりにもピュア!
そして、それを捉えるカメラも一切たじろがない!

これ、本当にすごいです。
大恐慌前の古き良きアメリカの夢を未だに生き続ける女性をカメラに収めたばかりではなく、彼女の瞳を通じて、ほとんどその夢そのものの実体化にさえ成功している。
映画がその被写体と恋に落ちるというのは、まさにこういうことなのです!

また、母娘で「二人でお茶を」などの名曲の数々を歌ったり、リトル・イディがダンスしたりといったミュージカル・シーンがふんだんにおさめられているのですが、それがもう実に素晴らしい。
プロフェッショナルなボイストレーニングを受けたという母親の声は年月を経ていまだに艶があるし、心の底から喜びを表現しているかのような娘のダンスは見ていて涙が出てくるほど。
その悲惨な生活とは全く対照的に、彼女たちの日常をとらえたこの作品は、ひたすら幸福に満ちあふれた輝かしい映画になっているのです。

PDVD_143そして、メイズルス兄弟によるこの作品、アメリカで大成功を収めます。
ビール母娘も有名となり、彼女たちの暮らしや言動、ファッションなどからインスパイアされた作品が次々と作られる。
映画公開から20年経った2006年には、同じタイトルでブロードウェイミュージカルにもなり、トニー賞まで受賞します。
ドキュメンタリー映画を翻案したミュージカルというのは、これがはじめてだったらしい。
この舞台はさらに、宮本亜門演出、大竹しのぶ・草笛光子の出演によって日本でも上演されました。

また、舞台を元にしたテレビムービーも作られる。
こちらは、ジェシカ・ラングとドリュー・バリモアが共演。
ドキュメンタリーが撮られた時期と、彼女たちが如何にしてこういう生活に至ったかという背景が交互に描かれています。
で、これがまた、オリジナル見てたら本当に泣けるんだ!

有名な場面がそっくりそのまま再現されるというばかりでなく、それを演じるラングとバリモアがめちゃくちゃ上手くてね。
そっくりなだけでなく、ここでもまた、ビール母娘への愛に溢れているんです。
たとえば、ジェシカ・ラングなんて、ビッグ・イディの(義眼のため)特徴あるまなざしとか発音の癖を見事に再現している以上に、彼女の持つ精神的な強さとか誇り高さとか、そうしたものを仕草の端々に感じさせる見事な演技を見せていて、ああ、これだけでもう泣けてくるなあ、と。

オリジナル見てない人がどう思うかは分かりません。
でも、メイズルス兄弟の作品を見た後であれば、これ絶対泣くと思いますね。

そして最後に、メイズルス兄弟自身による続編が2006年に作られました。
弟のデヴィッドは87年に亡くなっていますので、これは兄のアルバートが当時撮影していたフィルムをあらためて編集したものです。

PDVD_132ここでは、ビール母娘のまた別な側面を楽しむことができるばかりでなく、オリジナルに登場していたジェリーという修理屋の30年後の姿まで見ることができます。
75年版と負けず劣らず、きわめて感動的な映画であったことは言うまでもありません。
たとえば、ぼや騒動とか。
やばいです。
あれは…、どう見ても…

ビッグ・イディは、オリジナル版が完成した翌年この世を去りました。
彼女の死後、リトル・イディはグレイ・ガーデンズを売却し、そのお金で世界を回り舞台に立つ夢まで叶えた後、2002年に亡くなっています。
しかし、35年前に作られた『グレイ・ガーデンズ』は、今でも全くその輝きを失っていません。
何度見ても涙が出てきます。
いつ見ても、そこには愛が感じられます。
カメラが恋と夢を実体化してとらえてしまった、奇跡的な瞬間がここにはあるのです。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can skip to the end and leave a response. Pinging is currently not allowed.

コメントをどうぞ

XHTML: You can use these tags: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>