映画日記110723

PDVD_151『アルカザールの座席』リュック・ムレ
les sieges de l’alcazar (90)

今はなき映画館アルカザールを舞台に、コタファヴィやアントニオーニ、ビスコンティ作品を巡って繰り広げられるカイエ派とポジティフ派、そして男と女の愚かしくも馬鹿馬鹿しくも大真面目な趣味の闘争と恋の駆け引き!

いや、物わかりの悪い頑固なオタクたちが自分の趣味にプライドをかけて争うからこそ、映画は面白かったわけです。差別あるし偏見あるしものすごく偏った知識と趣味かもしれませんが、でも、それの何が悪いか!

…いや、悪いのかな?(笑)という微妙な距離感を持てるのも、こういうひたすら濃ゆい時間を人生の中で持つことができた人たちだからこそ。

シネフィルってみんな口が臭いのよねって女の子の台詞が突き刺さります。映画館館主の役でシャブロル作品でおなじみのドミニク・ザルディが出演。

自分が偏愛している作家について誰にも理解されず孤独に通い詰めて本を書き、やがてそれを読んだ他のシネフィルたちも来るようになると、映画が自分だけのものではなくなったことに寂しさを感じるあたり、ああ、なんかすごくよくわかるなあ。

スチールからお気に入りの女優の顔を切り抜くという場面があって、そこでカミソリがクロースアップになるから何だろうと思ってたら、トイレに置かれたそれ使って、後に映画館で女性とキスする主人公の姿を見た古参シネフィルが自殺を試みるって場面があった。痛い、痛いよ。

痛ましくもあり、愚かしくもあり、微笑ましくもあり、恥ずかしくもあり、ま、なんだ、要するに、みんなこれ見なきゃ駄目だよ!!

PDVD_098『テキサスの死闘』ジョセフ・H・ルイス
Terror in a Texas Town (1958)

これ、ベストのスコセッシよりさらに強烈です!これまでに見たウェスタンの中でも特に記憶に残る一本でした。個人的な西部劇のベストテンに入ると言って良いかも。いやあ、メチャクチャ面白い。衝撃的!

晩年をテレビ界で過ごしたジョセフ・H・ルイスにとって、映画としてはこれが遺作になるのですけど、とにかく西部劇としては典型的な構図の中に、複雑なキャラクター造形と感情の綾を幾重にも織り込んでいて、しかもそれらを一瞬たりとも弛めることなく最後までナイフのようなシャープさで描ききってる。

なかでも、全盛期を過ぎ利き腕を失っても、生き方を変えることが出来ない殺し屋と、彼を疎ましく感じ始める金持ちのボスとの関係が圧倒的に素晴らしくて、と言うのも、その悪役を演じたネドリック・ヤングがこの作品の実質的な脚本家で、しかし、非米活動委員会によってブラックリストにあげられていたため、名前を出せなかったらしい。

そうした経緯を含め、ひたすらノワールな感性に貫かれたウェスタンになっており、そこからも、時の試練に打ち勝つ作品となったような気がする。老いの苦悩と人生の悲しみと社会の不合理と、そしてすさまじい緊張感にあふれた、本当に面白い映画です。必見!

antoine_1『僕のアントワーヌおじさん』クロード・ジュトラ
mon oncle antoine (71)

雪深い田舎でのクリスマスイブを含めた数日を、叙情的かつ悪戯っぽいユーモラスな感性でとらえた素晴らしい作品。死への畏れや性への興味に刺激されながら、少年が成長していく姿を田舎暮らしの点景とともに描き出しています。本格的に名作!

この手の作品って、正直、描写の対象ばかりでなくスタイルまで野暮ったくて見てられないものが多いのですが、『僕のアントワーヌおじさん』は全く違う。70年代ケベックのジャン・ヴィゴと呼んでも良いし、フランス語の『木靴の樹』と呼んでも良いし、古典的風格を備えた『クリスマス・ストーリー』だと言っても良い。

むしろ、アルノー・デプレシャンがああした現代的佇まいの作品を作るのは、一方でこうした名作が映画史上に確固としてあるからこそであって、だからデプレシャンのファンは絶対この作品を見るべきだし、デプレシャンの技巧が鼻につくという人もこの作品は絶対気に入るはず。要するに、万人が見るべき傑作だってこと。

antoine_2カメラを向ける対象と、カメラを向けようとする自らの衝動そのもの、この両者への距離感が抜群に素晴らしい。一言で言うと、趣味が良いってこと。趣味の悪さばかりを誰もがひけらかすきょうびのこの国ですが、趣味の良さは美徳であるとこういう作品見て改めて思い出したいものです。趣味の悪さは悪ではありませんが、しかし一方で、趣味の良さは間違いなく美徳。

84年以来、トロント国際映画祭では10年ごとにカナダ映画史上のトップテンを選出しているらしいのですが、そこで毎回ベストワンに選ばれるのが、このジュトラの『僕のアントワーヌおじさん』。そんな作家や作品が日本で殆ど紹介されていないなんて!

ジュトラの作品は、フランスではありませんけど一応フランス語圏の映画ってことで、他がやらないなら是非横浜日仏学院シネクラブで紹介したいと思い、今あれこれ画策中です。そのうち、良いお知らせができることを願ってます。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can skip to the end and leave a response. Pinging is currently not allowed.

コメントをどうぞ

XHTML: You can use these tags: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>