アンジェイ・ムンクの天才

PDVD_582『不運な男』(60) アンジェイ・ムンク
Zezowate szczescie

めっちゃくちゃ面白い!チャップリンなど無声映画時代のコメディタッチとその精神を、第二次世界大戦を挟んだ自伝的な現代ポーランド史に重ね合わせる試みだと言って良いと思いますが、とにかくひたすら面白い!

ユダヤ人のような鼻を持ったアーリア人として生まれついたため、そのどちらにも属すことが出来ず、母国ポーランドからも敵国ドイツからも疎まれ、ブルジョワ階級からも共産主義体制からもつまはじきにされた不運な男の物語。
地面に頭を隠した醜いダチョウが、辛いだけの人生の中で少しは楽しみやひとときの恋を得ようと一瞬首を上げるたび、四方八方から理不尽な猛攻撃を浴びたような、そんな主人公の生き様を悲喜劇として描いています。喜劇なのは彼が鈍感だったから。悲劇なのは世界が鈍感だったから。

とにかく感性がモダン!展開はスピーディーだし、画面には今っぽいインパクトあるし、白黒映画ですが、これ今の若い人が普通に見て普通に面白い筈。しかも、それが何というか、映画的な折り目正しさとかセンスの良さと実に見事に調和していて、ホント得難い才能だと思うなあ。

スコセッシが死ぬほど嫉妬する映画だと言えばいいでしょうか(笑)。いや、彼はすごく誠実なシネフィルであって、だからそれをまた素直に認めちゃいそうなのであまり言うのは心苦しいのですが、でもそうなんですよ。この王道感と現在性の共存ぶりは驚嘆に値する。

PDVD_610何より、カメラの扱いが絶妙です。まるで自分の体の一部のよう。対象をカメラで愛する方法を熟知してる。あるいは、カメラで映し出される全てのものが全身で映画にラブコールを送っているかのような、そんな映画ファン冥利に尽きる奇跡的な瞬間ばかりでできてます。心がいっぱいになる。

アンジェイ・ムンクは、57年の『鉄路の男』で長編劇映画デビュー後、4作目『パサジェルカ』撮影中、自動車事故により40歳の若さで亡くなってしまったのですが、その全作品が映画史に残る傑作ばかり。これだけの才能なかなかいません。返す返すも、その夭逝が残念でならない。

ポーランド派の双璧としてワイダと共に語られることの多い(しかもマイナーな側の)ムンクですが、正直、映画作家としてはムンクの方が遙かに…、ま、そういう比較は下品なのでやめましょう。でもねえ…。ロマン・ポランスキーが助監督をつとめたほか、ちょい役で出演もしてます。

ちなみに、ポーランドのアンジェイ3兄弟(兄弟じゃないけど(笑))の個人的な絶対評価としては、ムンク >>>>> ワイダ >>>>> ズラウスキーとなります。それぞれ、決して埋められない差があります。

時代が人にある種の態度決定を強いるとき、そこで本当に簒奪されるものとのは、国家のプライドでなければ人間の気高さでもなく、薄明の中曖昧にひろがっていた筈の人生の豊かさと楽しみではないか。これは、現代に生きる私たちにとってもとてもリアルなテーマではないかと思います。

PDVD_662『白い決死隊』(55) アンジェイ・ムンク
Blekitny krzyz

はじめ記録映画作家として映画界に入ったムンクが撮ったドキュメンタリーの一本で、なぜか日本でも公開されています。タイトルのみ知ってましたが、見てびっくり、これ、素人役者と実際の雪山で撮られた実話作品というだけで、完全にムンクのフィクション作品と同列に語られるべき傑作でした。

ソヴィエトとナチが対峙する最前線の雪山で、取り残された小さな民間病院からスタッフとけが人を救うべくレスキュー隊が向かうって物語で、実話の再現ものですが、むしろ雪山を舞台にした山岳アクションとして見られるべき作品。はい、メッチャクチャ面白いです!

と言うか、これ、ハワード・ホークスじゃん!ホークスが撮った知られざる傑作としか思えない出来映えですよ!ほんっとに面白い。レスキュー隊って言っても、みんな50から60過ぎのおじいさんばかりで、味わい深いにもほどがある!主人慕って犬が付いてくるとか、楽しいシーンも満載!

PDVD_682診療所にレスキュー隊がようやく到着したって場面で、そこにいた看護婦がネックレス付けておめかしして、それ見た怪我人が笑うとか、魅力的な場面がいっぱいでした。これ見るとよく分かりますが、ムンクはいわゆる戦争の英雄なんてのに何の興味もないと思う。

戦争に英雄なんていない。ただ、人生の豊かさと日常の美しさと、そしてそれを守ろうとする人々のみが尊いのだというムンクの信念にあふれた作品で、しかもそれが単なるテーマや物語ではなく、まさにカメラを通じて事物そのものの輝きとして私たちに伝えられる。

ポーランド派って言うと、だから、かつては『灰とダイヤモンド』なんかのロマンチシズムやヒロイズムの文脈ばかりで語られて、ムンク作品も日本語字幕付けて共産党の機関みたいなところで上映されたりしてましたが、やっぱ正当に受容されてなかったと思うな。勿体ないよ!

何かにコミットする人々のヒロイズムや熱狂や陶酔からは距離を取り、現実と人生が放つ豊かさと魅力を実に面白い映画作品として掬い上げたムンク作品の輝きは、今こそ改めて注目されなくてはいけないのではないかと思います。

PDVD_724『炭鉱に星は輝く』(54) アンジェイ・ムンク
Gwiazdy Musza Plonac

タイトル、ちょっと意訳しました。原題は、「星は輝き続けなければならない」って意味で、ポーランドの炭鉱がフル稼働する時に点されたという星形のサインを意味してます。

『白い決死隊』の前年に撮られた作品で、ムンクのフィルモグラフィではあまり大きく扱われてないと思いますが、いやいやいや、これまたきわめて重要な一作。つか、すっごい面白い!大傑作!物語的には、国家的な石炭の窮乏に際して立ち上がった労働者たちを描いた2つのスケッチが交互に示されています。
一つは、閉山寸前の炭鉱で祖先が打ち捨てた古いトンネルの再調査に向かう人々の姿を、そしてもう一つは、新しいテクノロジーの導入によって引退を余儀なくされた老炭鉱夫が若者とともに再びトンネルへと向かう話が描かれる。

1つの主題に基づく2つのスケッチを平行させるスタイルは、後に『エロイカ』で繰り返されるものですし、テクノロジーに追いやられる旧世代の物語は、『鉄路の男』で描かれたそれとかなり類似したものです。その意味で、アンジェイ・ムンクの作家性を探る大きな鍵がここにはあると言えるでしょう。

PDVD_762しかし、それ以上に重要なのは、何はともあれこの作品がメチャクチャ面白いってことですね。誇張じゃないです。半端なく面白い!ジャック・ベッケルの『穴』やジョン・フォードの『わが谷は緑なりき』に比肩すべき映画史的な大傑作ですよ、これは!見てない人は恥を知れ、ってレベル!!

(…って、ついさっき私もはじめて見たばかりなんですが(笑)、でも、もう見たもんね。)

炭鉱で働く馬が登場するんですけど、その描写が本当に素晴らしい。あれだけ見事に馬をとらえる映画作家って、本気でフォードの名前でも出さなければちょっと追いつかないくらい。技術の進歩によって不要になった馬が追いやられていく場面とか、涙なくして見れない。

アクションあり、サスペンスあり、世代超えた友情あり、涙あり、笑いあり、文句の付けようのない大傑作です!もう、心が映画で満ち足りた気分になりますよ!いやあ、それにしてもアンジェイ・ムンクは、なんでまたあんなに爺さんの笑顔を見事に撮れちゃうんだろう!それだけでお腹いっぱい!

munk

試写日記:『プリースト』
スコット・チャールズ・スチュワート

通称、禿げの3D。ポスト・アポカリプスな雰囲気で展開される人間VSヴァンパイアの戦いを描いた西部劇風アクションでした。

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