ニコラス・レイへのオマージュ

womans_secret『女の秘密』(49) ニコラス・レイ
A Woman’s Secret

面白い!ニコラス・レイが『暗黒への転落』に続いて撮った第3作ですが、レイ作品のスタイル面での素晴らしさが凝縮されたような映画ですね。モーリン・オハラとメルヴィン・ダグラス、グロリア・グレアムの共演も見所の一つ。

ラジオの生放送に歌手として出演するスーザンが自宅で撃たれた。彼女の身の回りを世話していたマリアンが自分の犯行だと認めるが、彼女たち二人をよく知るピアニストのルークはそれを信じない。興味を持った刑事を相手に、ルークは彼女たちの物語を話し始める、って感じ。

基本的には、回想劇であり会話劇で、冒頭を除いて大きなアクションは起きない映画なのですが、ところが実際のフィルムは全編が生気にみなぎっている。あらゆる場面に必ず何らかの演出的アイディアが込められているところに、その大きな原動力があると思います。

もちろん、レイと言えば階段というくらい有名な、あの高低差を生かした見事な場面構築も見られますが、それ以外にも、たとえば刑事の奥さんが素人探偵だったり、会話する二人の背後で磨り硝子に人影がチラチラしていたり、鳥カゴの鳥がうまく生かされてたり、面白いアイディアが目白押し!

マリアンとルークが、階段で失神したスーザンを助けるって場面があるのですけど、そこで通れなくなった階段を上から来た若者たちがジャンプして下りるってことやってて、これがホントに素晴らしい!こういう思いがけないアクションが映画に魂を入れる!

他にも、生意気な若者が大人に反抗して食ってかかる場面があって、そいつの眼が収まりどころなく不安定にクルクルしてるとか、ああ、うまいなあ!って感じです。後に二人は殴り合いの喧嘩するんですが、そこがばっさり省略されていて、でも殺気は映画に漂っていて、そのバランス感覚も見事だった。

物語の大きな流れや俳優たちの演技や台詞を前面に出した大きな枠組みとしての作品構築が一方であったとして、レイの場合、そうしたものを常に動揺させたり突き崩したりするもう一つの何かを必ず映画に収めるのが特徴だと思います。だからこそ、そこに生命が宿る。活気にあふれる。

ところで、グロリア・グレアムは一時レイの妻だったわけですが、彼女にとってそれが2度目の結婚で、最初の夫と別れたその日に結婚してるんですよね。しかも、後にはレイの長男アンソニーとも結婚するわけだし。すげえな。彼女の不安定で信用おけない魅力(笑)が爆発した作品になってます。

born_to_be_bad『生まれながらの悪女』(50) ニコラス・レイ
Born to Be Bad

『孤独な場所で』と同年に撮られた、悪女ものの傑作。ジョーン・フォンテイン、ロバート・ライアン、ザカリー・スコット、メル・ファーラーという豪華キャストながら、日本では未公開。レイの第5作。

いとこのドナを頼るクリスタベル(フォンテイン)は、ドナの裕福なフィアンセであるカーティスを横取りしようと企んでいた。首尾良く彼らを仲違いさせ、カーティスの妻の座を手にしたクリスタベルだったが、彼のお金だけで彼女は満足することができなかった…という話。

もんのすごく面白い!『女の秘密』はスタイルの上できわめてレイ的な作品でしたが、それは逆に言うと、比較的凡庸なあの物語に彼があまり興味を持っていなかった(はず)と言うことでもある。それに対して、この『生まれながらの悪女』は物語を含めたトータルな意味で実に彼らしい作品。

礼儀を重んじ、自分の意志より相手のそれを尊重しようとする上流社会の中で、そんな彼らのルールを上手く逆手にとって操る悪女という主題が、もうどうしようもなくザ・ニコラス・レイ。確固とした構造や構築が異物の導入によって揺らぎ始める瞬間の輝きこそ最も彼の得意とするものだと思う。

こいつ最低の悪女だなと分かりつつ、同時にどうしようもなくその性的魅力に惹かれてしまう(おそらく)彼自身の執着とか倒錯を、映画の大きな構築と逸脱というダイナミズムへとそのまま結びつけている。これぞニコラス・レイの天才だし、これぞクラシックではあり得ない現代映画の魅力。

レイ様、倒錯しすぎです。

ジョーン・フォンテインがすさまじくゲスな悪女を演じていますが、『レベッカ』からわずか10年ですからね。すごいものだ。まあ、あの映画もそう言えばすさまじいカマトトに見えますけど。首とか上半身の使い方が大竹しのぶにしか見えなかった(笑)。背中の丸め方とかね。ああ、怖い怖いよ(笑)。

冒頭の場面とか、階段を利用した人物の出し入れ、ブザーを使った人物関係の簡潔な提示方法、そして電話の子機を利用した実に面白い空間活用など、きわめて多彩な方法で場面を活気づけてます。こういうのは、現代映画の教科書としても、それこそ映画学校で毎年必ず上映されるべきだ!

メル・ファーラーの出演シーンが全部素晴らしい。ある意味金持ちに寄生する画家であり、悪女の人生さえ自分の飯の種にしようとする抜け目ないゲスであり、信頼の置ける友人であり、無害な傍観者でもあり…。画廊で妙な双子と絡むシーンとか最高です。ラストを締めくくるのも、やはり彼。

いやあ、それにしても皮肉っぽくてフェティッシュで倒錯的で残酷で愛情にあふれていて、いろんな感情がこれでもかというくらい画面からあふれてきますよ!悪女は酷いとか、それでも魅力的だとか、そんな単純な話で語りきることのできない人間の複雑さがまるごと詰め込まれた傑作です。必見!

lastdaysofdiscoart_copy0『ラスト・デイズ・オブ・ディスコ』(98) ホイット・スティルマン
The Last Days of Disco

うーん、これかなり良いかも。確信持つには、もう一本くらい見たいですが。日本では劇場未公開ですがVHSでリリースされてるようなので、未見の方は是非。私はクライテリオン版DVDで見ました。とっても面白い。

基本的には、90年代くらいのアメリカで一部流行ったロメール・インスパイア系会話劇だと言って良いと思いますが、タイトル通り、ディスコ全盛期からその衰退、不況に至る時代の流れに合わせて、マンハッタンの若者たちの群像劇を等身大で描いた感じ。

難攻不落のディスコになんとか潜り込もうとする若者たちの場面に始まって、ほぼ全編、そのディスコでディスコミュージックが流れる中、若い男女が会話し喧嘩し恋をしたり悪口言い合ったりする場面が延々続きます。とは言え、青春ものにありがちな思い入れ過多の演出とかロマンティシズムが皆無。

結構ドラマティックな出来事が次々起こるんですが、登場人物もそれを見つめる映画の視点もずっとドライで淡々としてる。いや、淡々とはしてるんですが、その突き放し方がセンスあるんですよね。単にスカシてるんじゃなくて、ユーモアがあり、距離の取り方がとっても気持ちいい。

オープニングで歩道歩く二人の女の子の足並みが完全にそろってるあたりからすでに、あ、これ良い映画だなって匂いありましたよ!

これは気持ちよい距離感だなあと思っているうちに、誰にも共感できないくらいのバランスで描き分けられてる登場人物たち全員に好感持つようになる、というか、まるで昔からの腐れ縁の友達見ているような気持ちになってくる。で、役者たちがみんな良いし。良い役者揃えて、その良さを引き出してる。

とりわけ、主人公のどこか垢抜けないクロエ・セヴィニーと、スーパービッチ!なケイト・ベッキンセールのコンビが最高。二人ともまだ若くて、彼女たちが役者としても人間としても持っている一番根幹の部分に触れるようなパフォーマンスを見せていて、だからこそ、とっても説得力ある。

都会に住む若者たちの青春をこういうタッチと距離感で描いた作品って、実はなかなかないんじゃないかと思いますね。早口の台詞回しとディスコミュージックも非常に相性良くて気持ちいい。あ、あと、ジェニファー・ビールスも出演してた。これはオマージュ的なものかな。

そうそう。ドリュー・バリモアのお母さんジェイド・バリモアが、タイガー・ガールというとんでもない役で出ていて笑いました。あれ、必見です。

『ヤギと男と男と壁と』グラント・ヘスロヴ
The Men Who Stare at Goats

とりあえず全体的にすべってる。
あと、ジュニア考案らしいタイトルが前に出すぎていて映画が安っぽく感じる。

『パラノーマル・アクティビティ』オーレン・ペリ
Paranormal Activity

YouTube形式ホラーで手法自体が斬新という程でもないですし、怖がらせシーンもさほどではないですが、主人公カップルの男がすんげえウザくて、ああ、こういう奴はとりあえず事態を悪化させるよなと実感できて、それが怖かった(笑)。

なんも考えず、とりあえず俺のノリについてこい、俺のやり方が正しい、大丈夫だ安心しろって男は絶対安心できないよね、って映画でした。

ray

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