映画日記110829

The_Escapist_2008『脱獄者』(2008) ルパート・ワイアット
The Escapist

『猿の惑星:創世記』の監督がイギリス時代に撮った作品。一言で言えばキューブリック系ですが、なかなか良くできてる。面白かった。

『猿の惑星』には、脱獄もの+思春期の反抗(笑)という2つの要素がありますが、まんまじゃんという。この映画見てプロデューサーが任せたか、あるいは監督が得意分野で勝負したのか分かりませんけど(たぶん前者)、とりわけ猿の後半はなるほどこの映画撮った監督だから任せたのねって感じでした。

刑務所内の人間関係と脱獄のための様々な要素、そして偶発的な出来事をパズルのように組み合わせた作品で、登場人物の人間性とか物語奥行きみたいなものは意図的に排除されてます。タイムラインもかなり複雑に処理されていて、でも最後はスッキリ、ああなるほどねと分かる仕掛け。

正直、キレイに落としすぎだとは思いますが、まあ、そういう映画ではある。

脱獄ものって映画的で面白いと思うんですが、あんまやる人いないですしね。こうやって今風の仕掛けとは言え、アクション映画で正面から作ってくれるのはなかなか嬉しい。映画の出来も、『猿の惑星』よりタイトで良い。大好きな作品ではありませんが、腕はあると思う。こういう監督は重宝される。

000_Antichrist『アンチクライスト』(2009) ラース・フォン・トリアー
Antichrist

フランスでDVD買って、なんとなく見ないうちに日本公開が決まって、劇場で見ようかと思ってる内に見逃してしまってました。噂だけはずっと聞いてたので、ある程度覚悟してましたが、まあ、確かにいくつかの場面は結構痛いですね。

(とくに、フランスDVDなもので…)

(あれとかあれとか、日本公開ではどう処理されたのでしょうか…)

トリアー、実は結構好きな方の監督さんですが、これはあんまり乗れなかったかなあ。うーん、なんでだろう。トリアーって新しく奇抜なスタイル(玩具)思いついてそれに夢中になってる時が本人も観客も一番面白くて、自身それに飽きちゃうと作品自体が急速にだれる印象ありますけど、これもそれかも。

CMみたいなハイスピードのキレイキレイ映像とドグマスタイルの手持ちカメラの切り替えってのは、『奇跡の海』からそんなに遠くないし、もっと北欧っぽい「森の映画」を前面に出すかと思ったら、『ドッグヴィル』あたりの舞台の道具立て越えた印象があまりなくて、その辺ややガッカリ感がありました。

Direktoren-for-det-hele_8『影のボス』(2006) ラース・フォン・トリアー
Direktoren for det hele

トリアーが鬱病を発症したと伝えられてた頃の作品でしょうか。日本未公開。これもフランスで買ってきたDVDで見ました。ドグマ風コメディなんですが、うーん、これは正直厳しいなあ。

自分の会社を売ることになった社長が、実はこれまで社員に不都合な条件押しつけるため「影の社長」なる存在を創作していたものの、買い手からそのボスに直接会いたいと言われ、仕方なく売れない俳優を雇うことにするって感じ。コントみたいな小品です。

なんか、全体的にハッタリもなければ輝きもなくて、やっぱトリアーは悪いこと考えて楽しそうに映画撮ってないとダメだよなって再確認するだけの映画でした。

695026704027『ベートーヴェン通りの死んだ鳩』(73) サミュエル・フラー
Tote Taube in der Beethovenstrase

ついにゲット!筑摩書房の小説じゃないです。映画の方!ひどい!!いや、映画じゃなくて、DVDの作り酷すぎ!そして面白い!メチャクチャ面白い映画!金なかろうが、外国だろうが、フラーはこんな面白い映画作っちゃうんだから!

DVDの作りですけどね、画質まあまあなんです。ニュープリントじゃないですが、まあ、極端に酷いというわけではない。ただ、音が酷い。何が酷いって、何をどう設定しても、オリジナルの英語音声とドイツ語吹き替えが数分おきにクルクル切り替わる(笑)。たぶん音声ファイル自体が壊れてますね。しかも、字幕はスペイン語のみだ!

でも、話はシンプルだし、状況も一目で分かるようちゃんと見せるアメリカンスタイルなので、物語を追いつつ映画自体を鑑賞することはなんとかできましたけどね。で、これがまたメチャクチャ面白いんだ!

PDVD_476お話としては、アメリカの私立探偵が国際的な犯罪組織に潜入して、各国要人のスキャンダル写真を捏造しつつ、組織の内情を探るって感じ。ま、ありがちです。フラーがハリウッド時代にB級アクション映画で培った手腕とテクニックを存分に披露している。

ただし、その追憶とか再現とかパロディにしちゃわないのが、常に現在を生きる映画監督サミュエル・フラーのすごさですよ!すさまじく低予算で作られた作品ですが、B級アクションの形式に加え、70年代ドイツというこの時この場所でしか撮れなかったものを見事に組み合わせてる。

ホントはすごいのやりたいけどお金ないから許してね、みたいな「ダハ」感とは一切無縁!今ここで、すごくチャチなセットや手に届く限りの役者と共に、いかにして新しい価値を創造するか、そこに自らの映画の生命全てを賭けてる!言い訳やら身元保証やら、そんな下らないもの、フラーには無用!

…って、クリスタ・ラングが、わたし昔は女優だったのよと口にする瞬間、『アルファヴィル』がインサートされたり、グレン・コーベットが映画館で『リオ・ブラボー』に夢中になって「ジョン・ウェイン最高だぜ」とか言ったりする(コーベットはウェインの映画に出てる)場面ありますけどね(笑)。

PDVD_464それは、でも、もちろん何らかの支えや言い訳が欲しいわけではなく、目配せでもなく、むしろ、ヌーヴェル・ヴァーグ以降の映画作りやシネフィル的感性にも、自ら積極的に手を出す貪欲さであり悪戯っぽさでありフットワークの軽さだと思います。若いじゃん!偉いじゃん!

ステファーヌ・オードランまで出てくるんですよ!んで、音楽がカン!いやあ、ロックだ!でも何と言っても、あちこちで予算の足りない感じが露骨に出てるんですが、それを様々な手法でポジティヴにスタイルへと転嫁しようと試みてるのがすごい!使えるものは何でも使って試してる。

作品後半、ケルンで行われた大きなカーニバルを舞台に使ってるのも素晴らしい。記録映画的な生々しさを大がかりに映画へと導入しつつ、B級映画的なスタイルとの接合を試みてる。勿論、これはヌーヴェル・ヴァーグが意識的に展開したものですが、ある意味、本家がそれを再導入してる。

素晴らしいです。必見!…なんですが、なにせスペインでリリースされたDVDがホントに酷すぎで、もう一つ別のバージョンはさらに画質まで粗悪らしいので、たぶん権利関係とかいろいろ難しいんでしょうけど、どっか出してくれないかなあ。

fear_city『処刑都市』(84) アベル・フェラーラ
Fear City

日本未公開で当時ビデオスルーでした。ひっさびさの再見ですが、今回はフランス版DVDだもんね!画質最高でしたよ。んで、メチャクチャ面白かった。これやっぱ素晴らしい映画だ。

で、邦題確認しようと思ってAllcinemaチェックしたんですが、いやあ、酷いね!こんな読者を嫌な気分にしかさせない匿名の「感想」を、よくもまあ作品解説としてデータベースサイトに登録できたもんだ!良識も糞もあったもんじゃない。 http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=10950

こういうのが平然と横行してるの見ると、やっぱ日本は文化後進国だとしみじみ実感して悲しくなりますね。

まず、「フラー御大」は「フランス野郎」の「お芸術志向の魔手には落ちなかった」って、それこそ『ベートーヴェン通りの死んだ鳩』見てから言ってもらいたいね。こういう輩が馬鹿にしてるフランス野郎とフラー御大の間には、想像もつかない深い連帯意識があったりするわけ!

んで、『バッド・ルーテナント』つまんないけど、こっちは「B級でたまんないス」って、まあ、映画見てそのテーマとか読み込めないのかね?これ、単なるシリアルキラーものじゃなくて、都市の汚濁と暴力をめぐる贖罪の映画であって、その意味で直接『バッド・ルーテナント』につながってる。

ま、アメリカともフランスとも関係ない島国で、映画とも映画作家とも無関係に好きなこと喋りたい人はそうしてれば良いと思いますが、ただ、それをニュートラル装った作品解説としてデーターベースに匿名で載せるなよ!情報と個人の素朴な感想くらい区別付けてくれ!

で、Allcinemaの糞の役にも立たない「作品解説」の代わりに、ちょっとまともに解説しておくと、主人公トム・ベレンジャーは元プロボクサーで相手殺して引退しただけではなく、子供の頃にはマフィア同士の抗争で人殺しも目撃してる。現在はストリッパーのエージェント事務所で働いてる。

つまり、都市の暴力と汚れをまるごと抱えつつ、その中で目を閉ざして生き延びてきた人間。対して、連続殺人犯は暴力によってその街を浄化しようと考えるカンフーマニア。その二人を鏡像のように描くところに作品のポイントがあって、だから終盤では鏡を割る犯人の姿も写される。

さらに言うと、ベレンジャーは犯人を捜したと言うより、教会へ行った後、まるで導かれたかのように彼と唐突に対決することになる。普通で考えると相当無理のあるヘンなことを、あたかもスムーズな物語展開であるかのように見せるところにアベル・フェラーラのすごさがある。

そういう無理なことを、じゃ、なんでフェラーラはわざわざやろうとしたんだろう。そういうことを考えるところから、現代映画は始まるし、映画の作家主義というのも始まる。それは「なんか難しいこと」じゃなくて、映画の魂のありかを探る試みなんです。

ま、そんな高度なことを作品解説で書いてくれとは言いませんが、少なくとも間違ったこととか個人の感想に属する一方的でネガティブな意見を、あたかも匿名のニュートラルな解説であるかのように装って書くのだけはやめてもらいたい。これって最低限の望みだと思いますけどね?

cameraman_poster-xlarge『カメラマン:ジャック・カーディフの生涯と作品』(2010) クレイグ・マッコール
Cameraman: The Life and Work of Jack Cardiff

こういうの見ると、もう何本も映画見直したくてたまらなくなりますね!タイトル通り、カラー映画史上最高のカメラマンの一人と言われるジャック・カーディフの仕事に迫ろうとするドキュメンタリー。

ディートリッヒがいかに彼女自身最高のカメラマンであり、その指示通りに照明セットするのが常に最善だったかとか、カーディフの父がチャップリンと仕事していたため、わずか4歳の時(1918年)には役者として出ていたとか、イギリスで最初にテクニカラーを撮影したこととか、

さらには『天国への階段』『黒水仙』『赤い靴』に代表されるパウエル&プレスバーガーとの仕事、ハリウッドでのハサウェイやヒューストン、フライシャー、ボギー、キャサリン・ヘップバーン、スタローンといった人々との思い出。そしてフライシャーに促されて監督業にも手を染めたこと。

素晴らしいエピソード満載です。本人へのインタビューの他、スコセッシやローレン・バコールも登場。『アフリカの女王』で、みんな生水にあたって苦しんだのにボギーとヒューストンだけ大丈夫だった。それは彼らがウィスキーしか飲まなかったから!とか、大笑いでした。

『赤い靴』と『ランボー/怒りの脱出』を撮ったカメラマンが同一人物だと知らない人は絶対見るべき!知ってる人は、言われなくても見る筈。

catfish-movie-poster-1020556609『キャットフィッシュ』(2010) ヘンリー・ジュースト&アリエル・シュルマン
Catfish

米インディー映画界で昨年話題になった作品。流行りのYouTube&Facebook&GoogleMap形式(笑)と、とにかくソーシャルネットワークでつながったアメリカ社会の一断面を切り取った作品。

ジャンルとしては、一応ドキュメンタリーとだと本人たち&映画会社は言ってますが、いや、やっぱフェイクでしょ?という議論が絶えませんでした。結局どうなったんだろう?とりあえず、監督の二人は『パラノーマル・アクティビティ3』を撮ってるらしいので、そういうことだと私は思いましたが。

物語:監督のルームメイトであり兄弟でもあるニーヴのドキュメンタリーを撮ることになる。バレエ・フォトグラファーの彼は、撮った写真をネットにアップしたところ、それを元に描いた絵がeメールで送られてきた。そこから、その絵を描いた少女およびその家族とメール交換を始めるって感じ。

真偽はともあれ(たぶん偽だけど)、とにかくYouTubeスタイルの作品というとホラーとかショッキングな出来事にリアリティを持たせるためだけの演出だと思ってる人は、是非一度見ておくべきです。なるほど、こういう映画の作り方もあるのね、という。ほのぼのしててびっくりしますよ。

やっぱアメリカは大したものだ。いろんな手使ってくる(笑)。ほのぼのした人間探求系の(フェイク)ドキュメンタリーで1時間半ひっぱるんだから、まあ、話題になるだけのことはある。

beethovenstrase

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