映画日記110903

1312094497_f8f56962b69c4b87dd80e74a2029a3ed『蜜蜂の谷』(68) フランチシェク・ヴラーチル
Udoli vcel

再見。チェコ映画史を代表する映画作家でありながら、長らく西側諸国ではあまり知られてこなかったヴラーチルの作品。現代的な主題を含みながらも、あくまで雄大な風景に拮抗して立つその映画的形式性の見事さによって特筆されるべき古典的傑作。

近年、Second Runからボックスセットが発売されたり大規模なレトロスペクティヴが行われるなど、再発見&再評価の進むヴラーチルですが、日本でも大阪ヨーロッパ映画祭06におけるチェコ映画回顧展の中で数本上映されてました。OEFFは作品的に結構良いの入ってるんで勿体ないなあと思うことも…

舞台は中世のヨーロッパ。領主の父親に殺されそうになった少年は、テンプル騎士団に送られ、そこで育てられる。成人した彼は、兄弟のような親友を得るが、厳しい戒律や脱走者に対する残虐な仕打ちを見てそこから逃げ出すことにする。だが、親友が彼の後を追いかけてくる、って話。

チェコ・ニュー・ウェーブの中で語られることもあるヴラーチルですが、ミロシュ・フォアマンやイジー・メンツェルらより10歳近く年上で、映画学校で教育を受けた世代でもありません。美学を学び、記録映画などで修行を積んだ後、長編劇映画を撮るようになった。一つ上の世代の典型的コースですね。

タルコフスキー、エイゼンシュテイン、ベルイマン、黒澤明などと比較されるように、とりわけこの作品などではワイドスクリーンに展開される世界の大きさと映画的構築力の見事さに圧倒されますが、ヴラーチル作品全体としてはこれはむしろ例外的らしい。

カメラの使い方も、脚本の構成も、様々な隠喩も、あと、とりわけ印象的な音の使い方の形式性も、すべて実に見事に完成されています。古典的風格を備えている。同性愛的な隠喩や時代的な背景も感じさせられますが、それ以上に見事な映画のクラシックとしての佇まいを持つ作品。

フランチシェク・ヴラーチルは、ブレッソンや成瀬らと同様、映画史を代表する古典的作家の一人として普通に知られなくてならないし、研究もされなくてはならない。そのためには、まず日本では名前を広めるところからだし、フィルムセンターなんかがきちんと上映してくれないと!

valerie-a-tyden-divu『闇のバイブル/聖少女の詩』(70) ヤロミル・イレシュ
Valerie a tyden divu

ゴシックなカルトホラーとして一部でとても有名な作品で、英語版DVDで見てみたんですが、なに、この自主映画感というか大林感というか(笑)。途中でやめようと何度も思いましたが、なんか最後まで見ちゃった。

ヤロミル・イレシュもチェコ・ニュー・ウェーブとして知られる作家の一人で、日本では『マルシカの金曜日』が有名だと思います。

まあ、ロリロリなヴァンパイア映画の萌え場面集を本場の東欧で作ったって映画なので、この手の好きな人にはバイブルかもしれませんが、うーん、映画としてちょっと安いと思うな。日本でも耽美とかデカダンとか口にしそうな大学生あたりがこの亜流を毎年いっぱい作ってそう。

あ、タイトルは日本語DVDが発売されたときのものですが、すでに絶版。現時点でプレミア価格24800円ですって!もちろん、そんな値段では買ってません。英語字幕のDVDでおよそ500円でした。内外価格差、脅威の50倍ですね。

そうそう。『闇のバイブル/聖少女の詩』は、どこか黒沢清の『白い肌に狂う牙』を思い出させる部分もありました。なんで、最後まで何か引きつけられて見てたんですが、とは言え、キレイキレイを狙いすぎで安っすいよなあ(笑)、という気持ちもぬぐえず。

でも、あらためて予告編見ると面白かったのかも?って気になってきますね(笑)。この予告編は良くできてる。ま、ヴラーチルの後で見たというタイミングの悪さもあるので、今度また見直してみよう。
http://www.youtube.com/watch?v=GR07_yzRFMM

hunger-poster-2『ハンガー』(2008) スティーヴ・マックイーン
Hunger

DVDが届いたので、新作『恥辱』に備えて再見。圧倒的!本当に素晴らしい。

現代映画の一つの方向性として、たとえばワン・ビンのように、映画内世界に登場する身体への暴力を徹底させると共に、その形式性や物理的な上映時間などの映画的身体によって観客をもまた同様の極限的状況へ追い込むという流れがありますが、この『ハンガー』も大きくはそこに位置すると言えるでしょう。

ただし、看守の家庭や妻の姿、医者の様子など、監獄を取り巻く人々の描写などを通じて、映画の身体性の顕揚(それは暴力批判の暴力でもある)よりむしろ精神の死滅にマックイーンは関心を持っているように見える。それはまた、作品後半のインサートショットにも通じていると言える。

衰弱や死をいかに映画に収めるかというのは、実はきわめて厄介な問題で、この作品もそのあたり完全に成功しているとは思いません。しかし、きわめて野心的な作品であり、長編処女作でこれだけの映画的達成を成し遂げるのは、やはり並々ならぬ才能だと改めて思いました。

有名映画俳優と同姓同名のスティーヴ・マックイーンは、ロンドンとニューヨークで美術教育を受けた後、まず現代美術の領域で様々な賞を取り名を上げる。映画では、処女作『ハンガー』を08年に完成し国際的に話題となった後、最新作『恥辱』がまもなくヴェネチア映画祭のコンペで上映されます。

lake_mungo『レイク・マンゴー』(2008) ジョエル・アンダーソン
Lake Mungo

うー、結構怖かった。夜見るんじゃなかった(笑)。これもフェイク・ドキュメンタリーですが、何よりトータルな雰囲気を大事にしていて、ホラーとミステリの間を行ったり来たりする構成。古典的なゴーストストーリーです。日本未公開。

4人家族の長女がダムで溺死する。娘の死を受け入れることが出来ず、彼女の幽霊を見るという母親のため、残された弟は家の中にビデオを設置する。そこには奇妙な人物の影が映っていたが…、という話。

オーストラリア作品。Jホラーを経由しつつ、フェイク・ドキュメンタリーでゴーストものを作ることのベーシックな可能性を内在的に突き詰めようとしてます。ビデオで撮られたこの影は作り物でこの影は実際に誰かの姿だけど、あれ?でもなぜこの人はここにいるの?って感じ。

アメリカ製ホラーとは随分テイストが違ってて、ずっとウェットで薄気味悪くて日本的。少女の死の真相を探るうち、はじめ幽霊だと思ったものの謎が次々と解き明かされていくが、しかし、その謎の合間に最後まで残る不気味さがやがて見え隠れし始めるって作りです。結構怖いんだ。

同じ一つの映像が、その文脈を変えることで恐怖を喚起したり手がかりになったり、いくらでも見え方が異なってしまう。何かをそこに見ようとする者には、映像はいくらでもその期待に応える。でも、全ての期待が収束した後、それでもそこに残るもの。それこそがゴーストだ、って映画ですね。

qxNNVVWNRnBS0SI『花婿さんお断り』(52) ダグラス・サーク
No Room for the Groom

傑作!一見、結婚したのにセックスできないという、ヘイズコードを逆手に取ったロマンチックコメディなんですが、その形式の中にこれでもかというくらいサーク的な主題が詰め込まれてる。『悲しみは空の彼方に』へと直接連なる超重要作品。

親からぶどう園を受け継いだGIのアルバは、2日間の休暇をいかして家政婦の娘リーと駆け落ち同然の結婚をする。ところが、彼は水疱瘡のためそのまま病院送りになってしまった。7日間の休暇を得て、今度こそ妻と過ごそうとするが、家はリーの母親とその大勢の親戚に乗っ取られていた、って物語。

没落した領主の跡取りが戦争から戻ると、家は他人に乗っ取られ、街は変わり果てセメント工場に支配され、女性はみんなミンクのコートを着ている。唯一の財産であるぶどう園も地上げされようとしてる。妻と結婚生活を楽しもうにも、母親の支配によってそれを禁じられる、って感じ。

PDVD_519コメディなのに、ものすごく苦いです。最後は、サークお得意のデウス・エクス・マキナによって無理矢理ハッピーエンドになりますが、その苦さばかりいつまでも心に刺さって抜けない。『わたしの願い』や『悲しみは空の彼方に』などと同様、上昇志向や進歩主義への強烈な違和感がサブテーマとして描かれている。

戦争から戻った主人公が唯一共感できるのが、レストランを営む傷痍軍人の友達とリー親戚一同の中で唯一孤独に暮らす叔母だけ。前者は片足を引きずって歩き、変貌を遂げる街を呪う。後者は、知的な優しい女性でついつい他人に「余計な」アドバイスしてしまうため、独身で暮らさざるを得ない。

妻であるはずのリーさえ、狡猾な母親にうまく丸め込まれ、先祖伝来の家に代表される古い価値観を持つアルバを次第に疎ましく思うようになる。アルバを精神鑑定して、無理矢理彼から土地の所有権を剥奪しようとする下りなんて、あまりにブラックでシニカルで、殆どコメディの枠を逸脱してる。

こういう作品こそ、作家主義は再評価しなくてはいけないと思いますね。いかに監督本人が自分のフィルモグラフィの中で重視していなかったにせよ、ここには間違いなく、ダグラス・サーク映画の魅力、その知性と輝きの全てがぎっしり詰まってます。誰が何と言おうと傑作です。

PDVD_526人々への違和感や距離感は、スクリーン内のさまざまな枠として明確に画面に刻印されてるし、階段を使った空間造形もきわめて魅力的、窓の外に広がる進歩という名の風景=スペクタクルへの強烈な嫌悪感はコメディという外見に隠されたこの作品の深い陰影を直接反映しています。

ダグラス・サークの映画って、妙な言い方ですが、私は癒されるんですよね。と言うのは、そこに批評的な距離が存在するから。親密さと馴れ合いの違いがきちんと踏まえられた世界だから。とりあえず、最近のアニメとか映画とか、その世界が観客含め馴れ合い基調だからイライラするんだよ!

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