映画日記110905

marketa_a『マルケータ・ラザロヴァ』(67) フランチシェク・ヴラーチル
Marketa Lazarova

再見。アクションのダイナミズムと静謐な象徴主義と雄大な風景と徹底したフォルマリズムに貫かれた、暴力と残虐と不浄と混乱と恩寵と愛と祈りに満ちた2時間40分の超大作。あらゆる映画監督が生涯に一度は撮りたいと願うような作品。

『マクベス』+『フォルスタッフ』+『イワン雷帝』+『七人の侍』+『山椒大夫』+『僕の村は戦場だった』+『鏡』+『火の馬』+『ゴダールのリア王』という感じでしょうか。チェコ映画史上最高傑作とも呼ばれるクラシックですが、同時にきわめて難解な映画でもあります。

物語はかなり複雑で叙事詩的な魅力を湛えていますが、基本的には、中世を舞台に砦を構える盗賊一味が貴族の師弟を襲ったことにより、王の軍隊から攻撃を受ける。その中で、身分の異なる2組の男女が恋したり、親子の物語、放浪者の物語などが展開していく。

16976-default-2011-05-09_104552_Marketa_Lazarova_3一言で言えば、テーマは生命そのものと言って良いでしょう。それも、ニューエイジ的な象徴主義に逃げるのではなく、見渡す限り広がる大きなワイドスクリーンの風景の中で、それに拮抗するような大きな物語とスタイリッシュで豊かな映像、そして悠々と流れる時間の中で展開されています。

まあ、『ヴァルハラ・ライジング』なんて映画の監督は、とりあえずこの『マルケータ・ラザロヴァ』を100回見てから自作に取り組むべきであって、しかも、その上で自分には資格がないと思って諦めるべきだったと言うべきでしょうね。あ、『ドライヴ』はまだ期待してますが(笑)。

『マルケータ・ラザロヴァ』は、疑いなく、風格ある古典的傑作と呼ばれるべき作品であり、映画史上の宝です。フランチシェク・ヴラーチルを発見しよう!

Troll_Hunter_Poster『トロルハンター』(2010) Andre Ovredal
Trolljegeren

新作でそこそこ良い評判聞くのに異常に安かったので買ってみました。ブレア・ウィッチ系のフェイク・ドキュメンタリーにハリー・ハウゼン風のアナログな特撮を組み合わせたコメディホラーですね。

学園祭の出し物としてはお金がかかってるって感じでしょうか(笑)。後半はさすがに退屈した。因みに、フェイク・ドキュメンタリーはモキュメンタリーとも呼ばれますが、なんか語感が好きじゃないので、あんま使いたくない。

455353.1020.A『ロック・ハンターはそれを我慢できるか?』(57) フランク・タシュリン
Will Success Spoil Rock Hunter?

日本未公開。WOWOWで放送されたことがあるみたいで、タイトルはそのときのもの。同じ監督&主演ジェーン・マンスフィールドのコンビでヒットした『女はそれを我慢できない』をもじってますね。

私はニュープリントのEUREKA!ブルーレイ版で見ましたが、素晴らしい画質でしたよ。当時の20世紀フォックスが技術の粋を尽くして作り上げたシネマスコープを堪能できます。ジョー・ダンテによる紹介とか、アウトテイク集、豪華ブックレットも付いて、とても価値あるパッケージ。

テレビと宣伝業界を舞台にした「業界もの」ですね。セルフパロディ色もある。うだつの上がらない宣伝マンのトニー・ランドールがマンスフィールドをフィーチャーしたCMを思いつき彼女を訪ねていったところ、なぜかその恋人のふりをさせられる羽目になって…、というお話。

マンスフィールドの役名がリタ・マーロウで、リタ・ヘイワース+マリリン・モンローないし自分自身そのままといったハリウッドのセックスシンボル役で出てきます。あと、ノンクレジットでグルーチョ・マルクスがいきなり登場。いつものギャグやるのが大笑いでした。

まあ、フランク・タシュリンなので、基本的にはあまり冴えたところのない凡庸なコメディですし、こういうのは時代の変化をもろに受けると思いますが、やはり商品としてはしっかり作られてるなあ、という印象。さすがハリウッドです。

今気づきましたが、この2本は「ハンター」2本立てだった(笑)。

500full『ロビンソン漂流記』(54) ルイス・ブニュエル
Robinson Crusoe

昔買った英語版DVDで見ましたが、今は紀伊國屋書店から国内盤も出てるみたいです。『幻影は市電に乗って旅をする』なんかと同時期で、ブニュエルの一番脂がのっていた時期じゃないでしょうか。メチャクチャ面白いです。

すっごく的確なカメラワークと流麗な語りで、本当に素晴らしい作品なんだけど、こういうの、その価値を見逃されがちで、正当に評価されなかったりするんだよなあ。最近のウェス・クレイヴンもちょっとそういう側面あると思う。なんて勿体ない。

一応、夢のシーンとかありますが、シュルレアリスムの巨匠というイメージとはまるでかけ離れた作品です。全体的にサクサク語られていくんだけど、衣食住少しずつ整えられていくのがそれだけでものすごく面白いし、犬と猫が登場して、あきらかに犬に思い入れがあるんだね、と。

それは勿論、後半のフライデーとの関係につながっていく訳ですけど、神のように崇められたり優しさを見せたり罰を与えたりって感じで少しずつ主人と奴隷の関係ができあがっていく流れ、ブニュエル明らかに楽しんでるな。と言うか、感情乗せて描いてるな。この辺りが一番面白い。

INTIMNI_OSVETLENIa『心地よい照明』(65) アイヴァン・パッサー
Intimni osvetleni

チェコ・ニュー・ウェーブを代表する監督アイヴァン・パッサーの処女作であり、彼がチェコで撮った唯一の長編です。キエシロフスキが最も影響を受けた作品と呼び、60年代のヨーロッパを代表する映画の一本。

アメリカで大成功したミロシュ・フォアマンとは異なり、パッサーはブロックバスターや国際的な映画賞とは無縁でしたが、数こそ多くないものの、実に優れた作品を作っています。日本では殆ど紹介されてないのがあまりに理不尽。『男の傷』とか『生き残るヤツ』とか最高なのに。

プラハの春に続くソヴィエト軍事介入によって、その後アメリカでの亡命生活を余儀なくされたパッサーですが、この作品にはそんな政治性やお国柄みたいな要素は一切入っていません。ヌーヴェル・ヴァーグの影響を強く受けた即興的演出と喜びに満ちたコメディです。傑作!

物語としては、田舎のオーケストラがソリストを招いてコンサートを行う。都会から来た彼は、楽団の一員である音楽学校時代からの旧友の家に泊まるが、若くて洗練された美人の恋人を伴っていた。田舎の人々と彼らとの間で、微妙な行き違いと感覚のズレが見え隠れする、って感じ。

大きなストーリーや出来事は殆どありません。上記のシチュエーションから生まれる、きわめて日常的なちょっとしたズレや面白さを丹念に見せていく感じですが、ただ、それがホントに面白い。四重奏の練習をするおじさんたちの背後の窓から、若い女が必死に猫を差し出して見せようとしたりとか。

どうってことない出来事ばかりなんですが、その微妙な空気感に次第に巻き込まれていく。映画ってこういうものだよね、って確信が全編に圧倒的な幸福感をまとわせている。素晴らしいです。都会人と田舎の差異を笑ったかと思えば、その都会人の自意識を今度は笑ったり。

チェコの田舎の風景も、本当に魅力的。葬式の裏庭を挟んで、葬送のトランペットを吹く場面があるのですが、草原を揺らす風とか、その中でなぜか水着姿で草を刈るおばさんがいたりとか、ゆったりと流れる時間が本当に心地良い。カメラはアメリカでも活躍したミロスラフ・オンドリチェク。

最高の処女作だと思います!こういうの、今でも今なりの面白い作り方あるし、やって絶対面白い筈。何も大したこと起こらないけど、その些細な出来事の連続をただ見てるだけで面白くて感動するような映画、日本でももっと撮る人いたらいいのに。

life_during_wartime_ver4-copy『ライフ・デュアリング・ウォータイム』(2009) トッド・ソロンズ
Life During Wartime

ソロンズも公開されなくなりましたね。これは『ハピネス』のキャラ設定を受け継いだルーズな続編的作品ですが、とても素晴らしかったです。泣ける。クライテリオンからリリースされたDVDで見ました。

人生の中で大きな災難、悲惨な出来事、家族の秘密の露呈などを経験した人々が、いかにしてそれを「許して」「忘れる」ことができるのか、あるいは本当にそんなこと出来るのだろうか。たとえば、9.11のテロリストに対しても?という難しい主題を様々な角度から描いた作品。

「普通」とは何か?私たちは「普通」を装って生きていくことが出来るのか?そしてそれは幸せなのか?こうした疑問に日々向き合いながら生きている「普通」の人々に対して、ソロンズは暖かくユーモラスに、かつ冷たくシニカルで残酷にそれを描いている。非常に複雑な大人の視点を感じます。

LIFE-DURING-WARTIME.previewユダヤ人とその文化が一つの背景となり、バル・ミツバーが取り上げられていること、そして大きな悲劇(全てを吹き飛ばすハリケーン、あるいは中国)を目前に控えた小さな庶民の日常的な悩みが主題であることなど、コーエン兄弟の『シリアスマン』ときわめて似てる部分があります。

ただし、ソロンズの視点はコーエン兄弟よりずっと人々の間に入っていて複眼的。人間観察的には、こちらの方がずっと成熟してる。しかし一方で、映画としてはコーエン兄弟の方が大きな広がりを感じさせるのも事実であって、この辺、映画の難しいところだと思いますね。

逆に、たとえば『マグノリア』よりはずっと冷酷で突き放してるとも言える。あと、微妙にバランスを欠いた外見の人々を集めて、微妙にバランスを欠いた構図の中で見せていくのですが、コーエン兄弟ほどあざとさがなくてとっても良い感じ。わざと隙間をたくさん残した映画に仕上げてます。

生まれる国と等身を間違えた任侠映画の主役のようなキアラン・ハインズがいつもながら最高でした。あと、シャーリー・ヘンダーソンが、周りを不幸にしかしない無意識のカマトトを演じていて、ああ、こういうのはやっぱアメリカにもいるんだな、イラつくんだな、と大笑い。

intimate

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