映画日記110906

PDVD_653『万人の恋人』(34) マックス・オフュルス
La signora di tutti

圧倒的に素晴らしい!ドイツやフランスでキャリアをはじめたオフュルス初期作ですが、これは当時一流監督が不在だったイタリアが彼の『恋愛三昧』に着目し招いた作品。『歴史は女で作られる』にまで一貫する主題とスタイルが既に確立してる。

物語としては、フランスの人気女優が自殺を試みる場面から始まる。彼女は夢で自らの半生を思い出す。美しすぎる彼女は、何人もの男性から愛される。とりわけ年上の男性たちが彼女に愛を捧げ、そして自滅した。運命に翻弄される彼女は、自分自身の恋愛だけは成就させることが出来なかった。

今、日本で映画化するなら、壇れい主役ですかね?

PDVD_586映画界を舞台にした女優の半生ものというのに加え、長回しを多用した流麗なスタイルということもあって、先日見たばかりの『La signora senza camelie』を思わせる部分もあります。ただし、アントニオーニとは明らかに違う。何より、映画にダイナミズムがある。

アントニオーニのカメラは、先に動きが決まっててそこに登場人物が上手く収まるよう動いてる印象が強いんですね。どこか固くて冷たい。それに対して、オフュルスのカメラはそこに登場する人々と一緒にまるで跳ね回ったりダンスを踊ったりしているかのよう。ギクシャクもするけど、生気に漲ってる。

トーキーから映画の世界に入ったオフュルスですけど、カメラワークはまるでサイレントそのもの!それ自体生命を宿して、登場人物の一人として振る舞っているかのようです。つなぎも相当無茶やってて、イマジナリーラインなんて軽く無視、デプレシャンのようにザックリ流れ切ったりもする。

全体が回想形式なのに、その中で入れ子の回想作ったり、別人の回想交えたり、物語構成的にもかなりアクロバティックなことやってる。でも、映画の文法なんてどうでも良いんですよ。実際に映画見れば、実に流麗でエネルギーに満ちあふれて説得力あって、惚れ惚れするほど美しい!

PDVD_572こういうの見ると、映画史から映画の文法を抽出するのがいかに馬鹿馬鹿しいかよく分かる。

後にヌーヴェル・ヴァーグが再発見し再創造した映画の生命が、ここには疑いなく息づいてます。どんなに悲しい物語が描かれたとしても、映画自体は私たちに人生を愛する力やエネルギーを与えてくれるものではないだろうか、そんなことを考えさせられる素晴らしい作品!

それにしても、もんのすごい長回し!単に長く回すだけじゃなくて、危険なこと、無茶なこと、バランスの取れないこと、禁じられてること、ありとあらゆることにチャレンジして、そのドキドキ感を全て映画の力に結びつけてる。しかも上手い!映画って、まさにこういうもんですよね!

足漕ぎのミニボートと森の中を走る車のカットバックとか、もう最高!なんで最近の映画って、こういう単純に映画として喜ばしい場面が殆ど見られないんだろう。

Friends-of-eddie-coyle-crit『エディ・コイルの友人たち』(73) ピーター・イエーツ
The Friends of Eddie Coyle

70年代犯罪映画の幻の傑作と呼ばれ、クライテリオンによってDVDリリースされるまで長らくソフト化を待望されていた作品。ロバート・ミッチャム、ピーター・ボイル、リチャード・ジョーダン、スティーヴン・キーツ共演!

疲れ切った日常の中で展開される、いかにも70年代的な雰囲気の負け犬映画で、銀行強盗や銃の密売といった犯罪、そして仲間の密告が一切のカタルシスを欠いたまま淡々と展開していきます。非情な世界の、未来のない男たちの物語。砂を噛むような虚しさばかりが後に残る。渋いです。

同時期に作られたジョン・ヒューストンの『ファット・シティ』に通じるものがありますが、ともに物語的な抑揚を抑えた作品ながら、イエーツは映画的にも平板な印象があって、比べるとやや落ちるかな。でも、今のアメリカ映画からは失われた「ある種の質」が間違いなくここにもある。

『エディ・コイルの友人たち』予告編 http://www.youtube.com/watch?v=_WtR-mi6VtU

cutters-way-147712『男の傷』(81) アイヴァン・パッサー
Cutter’s Way (Cutter and Bone)

再見。『ディア・ハンター』同様、ベトナム後遺症に苦しむアメリカの姿を反映した傑作。80年代アメリカ映画を代表する作品の一本ながら公開時のスタジオの混乱(限定公開、タイトル変更)や『天国の門』余波で現在まで正当に評価されていない。

既に80年代に足を踏み入れながら、強烈に70年代の匂いを感じさせる負け犬映画。以前見たときはその違和感を強烈に感じましたが、見直してみると、80年代への時代の変遷も濃厚に刻印されている。映画自体の不遇な状況含め、ニューシネマそのものの時代への敗北と最後の輝きがここにある印象。

物語:戦争で片眼片腕片足を失ったカッターは酒に溺れ妻モーを蔑ろにしている。彼の親友ボーンはひそかにモーを慕っているが口には出さない。ある日、ボーンは死体遺棄現場に出くわす。犯人が街の有力者ではないかという考えに飛びついたのはカッターだった。彼は次第にその考えに取り憑かれる。

image-2-for-films-gallery-106859293恐ろしく陰鬱で悲しくて無力感に支配される映画。同時に、アイヴァン・パッサーの見事な映画的センスがそこここに発揮されており、実に素晴らしい。『タクシー・ドライバー』などと同列に評価されるべき大傑作!コーエン兄弟が『ビッグ・リボウスキ』でオマージュを捧げたことでも有名。

ボーンがボロ車を運転してると、篠突く雨が降り出し、裏道で車がエンストする。やれやれとハンドルをたたくと、後ろからやってきたキャデラックの男がなにやらゴソゴソしてる。何だろうと車を降りると、そのキャデラックが急発進して轢かれそうになる。

ふざけんな!とにらむと、雨が急に激しさを増す。最低だよと車を蹴っ飛ばして歩き始める。その背後にはゴミ箱が転がってる。その中から、赤いハイヒールを履いた女性の足が見える。…って、この場面、ホントに見事!一生忘れられないようなイメージ連鎖。

335484.1020.A有力者の口を割らせようと、口汚く罵りながらカッターがポロクラブの中でヨロヨロ近づくと、疾走する馬に蹴飛ばされそうになる場面とか、本当に素晴らしい。70年代的なやり場のない怒りと悲しみが、80年代的な富と繁栄の中で幻想やフィクションへと変容していくドキュメントがここにはある!

監督のアイヴァン・パッサー、そしてジェフ・ブリッジスとカッター役のジョン・ハードいずれにとっても、キャリアを代表する作品の一本だと思います。とりわけ怒りと狂気と幻想の中で周囲から隔絶していくジョン・ハードの存在感が圧倒的。ジャック・ニッチェの音楽も素晴らしかった。

日本では未公開どころか、わずかにテレビ放映されただけ。あまりに理不尽な状況ですが、作品自体は本当に素晴らしい。映画史的な傑作です。未見の方は、何としても見るべし!

brand_upon_the_brain_01『脳に烙印を!』(2006) ガイ・マディン
Brand Upon the Brain! A Remembrance in 12 Chapters

西武カルチャー華やかりし頃、一瞬だけ日本でも紹介され、その後はフィルメックスでたまに上映されているマディンですが、現在までにかなり多くの作品を撮るとともに、国際的な名声も得ています。これもフィルメックスで上映された。

サイレントないしトーキー初期の映画をカットアップしたような独自のスタイルで、まあ、日本でもたまにそういうのありますしPVでも見かけますが、マディンの場合、ちょっと格が違いますね。サイレント映画を熱愛し、その深い知識と教養に基づいた上で自分のスタイルを築いてるのがよく分かる。

だから良いってことにはなりませんし、実際、個人的には傑作とまでは思いませんが、少なくとも何をやろうとしているかはよく分かる。成果も上げてると思う。

物語としては、成人したマディンが故郷の島に帰るところから始まる。かつて彼は、両親と姉そして大勢の孤児たちに囲まれてそこで育った。母は遠隔監視装置で島全体を支配し、父は謎の研究を続ける。孤児たちの秘密に関心を持った探偵が島にやってきたところから、彼らの運命は変転する…って感じ。

作家性としては、先日亡くなったラウル・ルイスにちょっと似たところあって、奇妙なスタイルに目を奪われますが、その本質は語りの力とゴシックな物語の輝きを現在へと再生させることにあるように思います。とにかく饒舌だし、ほら話の魅力にあふれてる。面白い。

『ドクター・モローの島』『フランケンシュタイン』『雀』『メトロポリス』『サンライズ』『吸血鬼』などなど、さまざまな映画の記憶をごっちゃまぜにして、そこに同性愛やインセストタブー、ユニセックスな少年探偵、猟奇性、カニバリズム、性的倒錯など様々な主題を練り合わせた感じ。

20世紀初頭の想像力を現代に蘇生させるためにこそ、このスタイルが採用されているように思います。ちょっとガロっぽい気も。こういう試みの存在は、やっぱ知っとかないとね。ナレーターとして、イザベラ・ロッセリーニが参加してます。

la_signora

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