TIFF日記02_111025

『ある娼館の記憶』
ベルトラン・ボネロ

素晴らしい!病と死と猟奇と倒錯と絶望と美に彩られたダークでゴシックな『メゾン・テリエ』であり、溝口とウェルズへのオマージュ。フランス的な現実主義とポルトガル的な濃密さの合間で19世紀末から現代に繋がる風俗描写をスケッチする試み。

同様の風土にキューブリックがハリウッドの顔を持ち込んだとするなら、ここで試みられるのは、ある種のザックリとした手さばき。ボネロはそれを粗雑さではなく現代的なマルチアングルへと接合している。

別の言い方をすると、それは可愛げとも言える(笑)。ま、実際、フランス版『ダークナイト』撮ってんだぜ!とか言い出しそうな気配があれば、さらに面白かったとは思いますが。

ラストが…、って同じような意見ばかりTLで見るけど、じゃ、マルチスクリーンはどうなの?限定された時空間の濃密さをどう受け継ぎ、どうずらすかってテーマだからなあ。そこだけ取り出してってのはいまいち解せない。

言葉をかえれば、まさに「ズバッとしめ」ちゃいけない映画だしね。基本、ズルズル感に意味がある映画だから、まずそこは汲むべきでは?

その共犯関係に映画としていかに寄り添うかという試行錯誤がエステティックな題材の中から立ち上がってくる作品でもありましたね。それは同時に、娼館を訪れ美醜と好みで相手を選ぶ客の視線をどのように差異化するかという問題でもある。RT @ElleaWatson: 生きるための共犯関係

エステティックでオーガンで濃密で世紀末的なイメージの連鎖をバロックに散りばめつつ、ただし、特権意識に保護された審美的視線を差異化し、隙間を作り、超えること(=彼女たちに寄り添うこと)を企図した作品という風に言えるかなあ。こちらの問題がより重要だと思う。

個人的には、さっきも書きましたけど、ポップなチャーミングさみたいなものがあればもっと好きになったとは思いますが、ま、それ自体、わたしのエステティックな判断に過ぎないかもしれませんし(笑)。

『ある娼館の記憶』の中で印象的な事件があって、客の一人が面白い論文あるよと娼婦に読ませるんだけど、それが娼婦と犯罪者は共に頭蓋骨が通常より小さいため思考能力と情緒に明らかな欠如が生じるって内容を「科学的」に論じたもので、たぶんこのエピソードは作品にとってとても重要だと思う。

ただ、同時にそこで冷汗かいたのは(笑)、やはりそうじゃいけないって常に気をつけてるからなんですよ。嫌うにせよ批判するにせよ、まずは相手の場所に立たなきゃいけない。その世界を見なきゃいけない。一方的なこちらの理論とか判断を、絶対的な正論や「科学」として押しつけちゃいけないと思う。

「ほら、だからお前は娼婦で馬鹿なんだよ」と、ニヤニヤしながら論文渡す娼館の客のような振る舞いはしたくないものです。

『備えあれば』
シュー・チュアンハイ

西部劇からマカロニ、香港、そしてコックスやタランティーノへと様々に繰り返されカジュアル化されてきた、荒野で財宝を奪い合う悪漢たちのテーマですが、これはさすがに…(笑)。途中入場してきて隣でボリボリポップコーン食べるおじいちゃんばかり気になりました。

『ティラノサウルス』
パディ・コンシダイン

ケン・ローチなんかに代表される典型的イギリス人間ドラマで、ピーター・ミュラン主演だし演出もしっかりしていてとても良く出来た映画だとは思うんですが、何だろう、この辺のってやっぱ年に何本も見たいとは思わないんだよなあ。しんどい。

何でだろうと考えてみて、それはたぶん人の心の美しさに希望は託しても、とにかくなんであれ世界は美しいって無媒介的にこちらに迫ってくることがないからかなあ。だから、美しい撮影が単に修辞的なものにしか見えなくなっちゃう。

『メカス×ゲリン 往復書簡』
ジョナス・メカス/ホセ・ルイス・ゲリン

しばしば同じ主題を取り上げながら、そのアプローチは正反対。メカスの映像はその周囲に広がる世界へと直接繋がり、一方ゲリンは映像そのものへと折り返される。映画の唯物論と唯心論の密かな目配せであり、共犯関係。素晴らしかった!

フィルムだろうがビデオだろうがメカスはメカス。その存在=芸の豊さに圧倒される。一方、震災以降の日本を撮ってそれを見事に小津と二重写しにするゲリンの目と耳には、もはや戦慄するしかない。

『明日を継ぐために』
クリス・ワイツ

メキシコからの不法移民を題材にその厳しい現実を描いた作品、と言うか、まんま『自転車泥棒』。リメイクか翻案名乗るレベル。役者は良いと思うんだけど、クリス・ワイツの演出が凡庸なメロドラマ。

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