『タイニー・ファニチャー』

tiny_furniture『タイニー・ファニチャー』レナ・ダンハム

これ絶対日本公開されないだろうけど、絶対見るべき映画!すっごい面白い!というのがその最初の理由で、二つ目の理由は、これがYouTubeで有名になった23歳の女性が自宅で家族を使ってたった200万円で撮った作品で、それがシネフィル向けレーベルとして知られるクライテリオンにまで注目されたという状況の面白さ。

殆ど彼女自身の自伝的物語なんですが、オハイオの映画学校で学んでいた女の子が卒業してニューヨークの自宅に戻って、でもそこにはリベラルだけど母性のかけらもない成功したアーティストの母親と、才能に溢れた美しい妹がいて、主人公は何か自分でも仕事しようとするけど上手く行かなくて、男ともそれなりに知り合うけどみんな普通に自分勝手で駄目な奴らで、要するに、学校は出たけれどこの先自分が何になれば良いのか分からない普通に駄目な若い女子である自分自身のやさぐれた姿を描いた作品であるわけですが、その距離感が抜群なんですね。
深刻に絶望するわけではなく、露悪的におどけてみせるわけでもなく、ちょうど良い距離感で自分の知っている世界を実にカラフルかつ豊かに映画として見せている。

普通に駄目ってのが良いんですね。決して立派ではなく、かといってものすごく駄目でもない。て言うか、みんなそうじゃないですか。今どき生きてる私たちなんて。普通に駄目なんですよ。それをあたかも立派な人間であるかのように嘘で固めるのではなく、かといってものすごく駄目だと慨嘆したり逆におどけたりする訳でもない。その中間。中間で当たり前にやさぐれてるのが良い。リアルだ。

ウディ・アレン(の本が何度か出てきますが)以降のキャラクターの面白さと自虐的なコメディセンスに基調を置いた作品ですけど、この予算でというのが信じられないほど絵作りとかディテール描写がしっかりしていて面白い。つか、普通にその辺の予算をかけたハリウッド映画の日常描写より世界がリアルで生き生きしてる。インディペンデント作品として、本来あるべき正しい姿だと思いますね。

ビジュアルセンスもかなり良いと思う。役者の演技も現実感あってリアル。物語的にも、とりわけ何か起こる訳じゃないんですが、すごく豊かな広がりを感じさせられますね。
自分の知っている世界は誰しも一つは持っている訳ですけど、でも誰もがその世界を生き生きと魅力的に映画として描写できる訳じゃない。これはやっぱ才能だし映画的な達成。

主人公が母親に対してブチ切れて感情高ぶってあれこれ不満をぶつけ始めると、そこにジムウェアの妹がふらっと現れてヘラヘラ笑いながら後ろで聞いてる場面とか、ああ、ホント面白かったなあ。単にリアルな日常なんじゃなくて、映画的に魅力あるリアルな日常。その切り取り方と見せ方が見事なんです。

家族のいない隙に男連れ込んで、飼ってたハムスター見せようとしたらなんか死んでて、仕方なくそのままジップロックしてフリーザーに入れる場面とかも最高だった。なんつか、適度に駄目でヘマでしょぼくて情けなくてリアル(笑)。ああ、リアルだ。
しかも、そのハムスター死んでることに気づくのが飼い主である自分じゃなく、連れ込んだ相手の男だという。なんて情けない(笑)。

いや、日本の自主映画の、とりわけ今上映中の某まつり系女性監督のみなさんとかもね、こういうの見ていろいろ考えたりしてほしいとか思っちゃいますが、ま、それはどうでもいいか。

監督&脚本&主演のレナ・ダンハムが最初に有名になったのって、どうやら友人に見せるためYouTubeにアップした彼女自身のビデオが、そこで写っている彼女の水着姿があまりにも太っていて醜いと嘲りの対象になったらしく、あっという間にものすごい量のコメントが付けられたことに始まるそうで、日本でもこういうネットの暴力事件はしばしばありますけど、彼女はそこから逆転してYouTubeの超人気コメディエンヌにまでなったらしい。
そこからスタートして、自分で脚本・監督・主演をつとめ、実際の母親と妹をそれぞれ母親役・妹役に配し、実際の自分の家族の問題をそのままコメディとして語ったこの作品を作った。
映画学校の学生だったのも、両親が成功した有名なアーティストであるのもすべて現実そのまま。舞台となるロフトも、実際の彼女の家を使ってる。
で、この『タイニー・ファニチャー』が、SXSWなど様々な映画祭で大きな賞を取って、さらにルノワールだの小津だのといったシネフィル向け映画ばかりリリースすることで知られるクライテリオンからDVDがリリースされた。
これってなかなかすごいことだと思いません?

もちろん、これは映画史的教養に溢れたタイプの映画じゃ全くありませんし、クラシックなタイプの名画でもない。でも、自分たちの知ってる世界を自分たちに可能な方法で、しかもとっても魅力的な映画として成立させることに成功した作品であって、それって今も昔も変わらず正しく映画のあるべき姿だってことですね。

デジタル世代、YouTube世代だから良いってことではなく、逆に駄目だってことでもなく、そうした時代にも、そしてそうした時代であるからこそ可能な、こんなに魅力的で豊穣な映画の世界が存在しうるのだと。それこそが素晴らしい訳です。

『タイニー・ファニチャー』予告編 http://www.imdb.com/video/imdb/vi4146895129/

『タイニー・ファニチャー』ポスター。「オーラは、彼女なりに結構しんどい状況だってことをあなたに分かってほしいと思ってる」ってコピーが最高! http://www.imdb.com/media/rm2505803264/tt1570989

いやあ、にしても、実際の母親と妹が出演してる自分の映画で、駄目な男と路上のしかもパイプの中でセックスして、その最中に「Sっぽく私に指図して」とか台詞入れて、さらにそれを母親に告白する場面まで撮るってのは、なかなかすさまじい肝っ玉の据わり方だ(笑)。

デジタルがどうだ映画愛が時代錯誤だ、その手の下らない水掛け論でお茶を濁してる間にアメリカじゃYouTubeから出た23歳の女性が200万円で作った映画でクライテリオンからDVD出してるんだから!お金じゃなく、アイディアと才能を育む企画力で日本はもはや太刀打ちできないよ!

何か具体的なことをやれってのは、まさにこういう話なんだよね。一方、日本では狭い世界で新たな環境の変化におびえるか、議論という名のバッシングで個人的なルサンチマン晴らして悦に入ってるか、そういう話ばっかでウンザリですな。

クライテリオン・コレクションに堂々と入った『タイニー・ファニチャー』のページ。周りにはベルイマン、クロサワ、ブニュエル、ゴダール、トリュフォー、ドライヤー!今起こすべき事件ってのは、まさにこういうの!
http://www.criterion.com/films/28317-tiny-furniture

先日、桃まつり竹本さんにネクスト・ステップについて尋ねられて、その時は色々あってお茶を濁しましたけど、この際だから言うと、だからやるならこういうことです。YouTubeに作品アップして200万円で長編作って映画祭で賞獲りまくってクライテリオンからDVD出してもらう。

クライテリオンによる「『タイニー・ファニチャー』を選ぶ3つの理由」ビデオがオフィシャル予告編よりずっと素晴らしい。並んでるのは『生活の設計』『七人の侍』『昼顔』だよ!
http://www.youtube.com/watch?v=S-TmhRuiiBw

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