映画日記 20120901

『エストラパード街』なう。10年ぶりくらい?

『エストラパード街』久しぶりに堪能!ただただ素晴らしい!
映画史上もっとも幸福な交通事故に涙するばかり!

試写日記
『愛の残像』La frontiere de l’aube 2008
フィリップ・ガレル

すんごい面白い!二部構成になってて、前半は真っ白なシーツの中の男女が微妙な距離感でウニウニする典型的なガレルタッチで進行、立派だけど自分しかいない世界は息苦しいなあとか思っていたところ、中盤である距離が導入。

『愛の残像』続き:すると後半はその大きな差異を軸にダイナミック(ガレル比)に展開。まるでサイレント時代のような派手な効果(ガレル比)も導入され、映画がギュンギュン音をたてて面白くなる!物語もタッチも、いつの時代に撮られたか分からないような古典的かつ現代的な傑作!

『愛の残像』さらに続き:にしても、『石の微笑』のローラ・スメットが、ここでもまた圧倒的に素晴らしい。強烈な情動に身体が引き裂かれ支配されていく様をあれほど見事に、そして肉感的に表現できる女優なんてそうは存在しない。

試写日記
『灼熱の肌』Un ete brulant 2011
フィリップ・ガレル

もんっっっのすごく面白い!!これはすごいなあ!たぶんタイトルとは全然違う映画だし、結末は冒頭から明らかなのに、それでも良い意味で常にこちらを裏切り続ける見事な画面と音響の連鎖!2000年代以降のガレルは本当に素晴らしい!

いつものように見事な木の映画だし、革命を希求する若いカップルの映画だし、悲劇的な恋愛の映画だし、大きな屋敷でウダウダする若者たちも登場するしベッドやソファの映画だし、ジョン・ケイルのピアノ曲も流れるんだけど、その全てに微妙な隙間があり、そこに世界が流れ込む。

もはや「美しい瞬間」「美しい僕たち」の映画ではなく、人間も時間も不均衡でそれそれ違っていてアンバランスで不格好なんだけど、その違いが、なんと言うか70%くらいの違いでありアンバランスさ。だからこそ、それはドラマではなく世界に開かれる。夢遊病のように漂い出す。

そして、30%に流入するものとはたぶんノイズではなく、人や、人と人の距離感や、時間そのものの緩みとして立ち現れるものだと思う。その緩みや隙間こそが、私たちに圧倒的な世界のリアルを感じさせる。レネ同様、ガレルもまた年を追うごとに若々しい映画作家として凄みを増している。

ガレルって典型的に神格化されやすい映画作家で、それにはもっともな理由もあったんだけど、作品ばかりでなくそれを取り巻く環境さえ息苦しくしてしまう理由の一つとなっていた。それが2000年以降、作品の方は明らかに変容している。周囲の言説や環境は相変わらずかも知れないけど。

『灼熱の肌』なんてウッディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』と並べて見るべきだと思う。どっちが好きでも嫌いでも認めても認めなくても良いんだけど、いろんな点で似てたりもするよ。で、これらを並べて見るってのが良いと思うんだ。

『灼熱の肌』は勇気の映画だと思う。若い頃からずっと撮ってきた同じ道具立てと筋立てを使って、しかもそれらを微妙に緩く微妙にずらしながら一見素っ気ない手さばきで一本の映画に仕上げるんだから。そこから私たちが受け取るべきなのはガレルの世界でもまなざしでもなく、その勇気。

冒頭、モニカ・ベルッチが裸体で声を奪われたままベッドに横たわってるんだけど、真に驚くべきなのはそこではなく、映画の中ではじめて彼女の声が聞こえてくる瞬間。「これだ!」でも「これは違う!」でもなく、「ああ、人の声はこういう具合に映画に導入されるのか!」という驚きがそこにある。

世の中の大多数の映画は「これは違う!」という映像と音響ばかりでできていて、一方、ガレルは全て「これだ!」であらねばならないという観念にかつては取り憑かれた映画作家だったと思うんだけど、いやあ、『灼熱の肌』は素晴らしいよ!『愛の残像』もすごかったけど、これは絶対見るべき!

映画作家って、カリスマ性が必要だけど、神格化されるようになって、それが作品にまで折り返されてしまうとそこで終了だと思うんだよな。そういう人、大勢いるけどな。

試写日記
『ベルタのモチーフ』Los motivos de Berta 1983
ホセ・ルイス・ゲリン

いかにも夢想家肌のシネフィルが撮った端正な反時代的映画で、ああ、この長編処女作からすでにゲリンはゲリンだなあと思うところ多かった。

試写日記
『ライク・サムワン・イン・ラブ』Like Someone in Love 2012
監督:アッバス・キアロスタミ

すんごい面白い!人と人の出会いの背後には無数の物語が広がっていてそれらはさらに大きく厄介な物語へと連なって行くのですが、映画はそれらをのっそりとかわしつつ、その動きの面白さと見慣れたはずの風景や人物の魅惑によってのみサスペンスを醸成する。

老人のように重たいのか若者のように軽やかなのかサッパリ分からない映画の足取りは、それだけで極上のサスペンスであり絢爛豪華なスペクタクルでもあるという発見!クラウドファンディングを通じてキアロスタミのこの傑作に出資した人々は、孫の代まで自慢して良いです!

『ファントム』Phantom 1922
監督:F.W.ムルナウ

久しぶりに再見。紀伊國屋から日本版も出てますが、私はMasters of Cinemaからリリースされたバージョンで見ました。字幕以外は同じかな?でもMoC版は2本入って1000円だったから(笑)。細部までクッキリ見える美しい映像に本当に驚く。堪能しました。

遠く『インセプション』にも影響を及ぼしたであろう主人公の上に街が崩れ落ちてくる有名な場面など、実に素晴らしい映像の連続ですけど、やっぱ通りに面した大きな窓のある家って良いですよね。この時代の映画には実にしばしば登場して、あれがすごく物語と世界を通底させるのに役立ってると思う。

タイトルを裏切って、と言うか、一切ファンタジーへの逃げのないガチガチにリアリスティックな貧困と転落の物語なので、見ている間は結構しんどいですが、観念的な言葉をそのまま映像にするとこうなりますって感じの、後半に出てくる短いショットの連続に溜息が出ました。あれはもう絶対出来ない。

『大公爵の財政』Die Finanzen des Grosherzogs 1924
監督:F.W.ムルナウ

初見。と言うか、みんな見てます?これスッゴイ面白いんだけど!もう、ムルナウからヒッチコックを経てツイ・ハークに至るもう一つの映画史が燦然と見えてくる大傑作!革命と華やかなロマンスと古き良き貴族精神に彩られた荒唐無稽なアクションコメディ。

とある小国が財政危機に瀕する中、一通の手紙を巡って国際的陰謀が跋扈し、謎の女性が助けを求め、紳士泥棒が屋敷に忍び込み、大公爵は執事と共にヨーロッパ中を駆け巡り、軍隊丸ごと引き連れたロシアの大公まで乗り出してくる。壮大で無茶苦茶な展開が超面白い!

女性に対して紳士的なのか粗雑なのかサッパリ分からないあの独特の扱い方が、もうまるっきりヒッチコックで嬉しくなりました。財政破綻しててお金ないのに子供と水遊びすることしか頭にない大公爵とか最高だし。執事が心配して胸痛めてたら逆に慰めたりして、いや、お前のせいだろ、という(笑)。

車や帆船など、移動が多くて風景の変化がすさまじくスピーディーな展開の作品ですけど、一つ一つの構図やオブジェが実は入念に磨き込まれてる。あっさり見せてますけど、これ実は超お高いんですよって感じ。ピカピカに輝いてる。豪勢。帆船の撮り方とか、あれはやっぱ真似出来ないよなあ。溜息もの!

車から飛び降りて逃げてきた謎の女性が、フランスのカフェで紳士泥棒と出会って、気を失った彼女に泥棒がコニャック注文するんだけど、それ自分で飲んじゃって、持ってきたボーイに対して、僕は他人が気を失うと途端に元気がなくなるんだと言い訳する辺りとか、いやあ、面白い!これが映画だ!

『大公爵の財政』、メチャクチャ面白いです!ムルナウに対するイメージを刷新するような大傑作!これは是非見て!ホント面白いから。いやあ、誰か日本で上映してよ。絶対やるべき!いや、まずこのタイトルじゃ駄目だな。面白さが伝わらない。なんか良いタイトルと日本語字幕付けて上映したいものだ。

試写日記
『THE GREY』THE GREY 2011
ジョー・カーナハン

西部劇のアイディアを随所に織り込んだ正統派アクションアドベンチャーで、なかなか面白かったです。冒頭含めドラマ的な部分でややもたつく点があるのは残念ですが、アクションの見せ方に関しては結構ツボを押さえた演出してると思う。

いつもながら、リーアム・ニーソンは風格あって良い役者だと思う。映画の屋台骨支える力がある。結構しょうもない映画にも涼しい顔して出てくれる感じも良い。やや色気が足りない部分が少し残念かな。

試写日記
『ダークナイト ライジング』The Dark Knight Rises 2012
クリストファー・ノーラン

相変わらずハンス・ジマーはすごいと思った。いつもの警備員さんの他にもう一人警備の方が立ってられましたが、これはやっぱそうなんですよね?

試写日記
『ミステリーズ 運命のリスボン』Misterios de Lisboa 2010
ラウル・ルイス
存在しない『アンバーソン』完全版を夢見てひたすら妄想と枝葉末節が膨れ上がった歪んだ物語のモザイクであり円環。当たり前ですが、ノーランなんかとは格が違うよ。御者の後ろ姿撮るだけで、映画はこれほど大きさを獲得できる。

試写日記
『プロメテウス』Prometheus 2012
リドリー・スコット

面白い!何書いてもネタバレになりそうなので止めますが、(シリーズ的・映画史的)先行作品のテーマやら細部やらフォーミュラを引き継いだ上でちゃんと今のアクションスリラーになってる。怒涛の展開なのにバランス良いんだよなあ。必見です!

試写日記
『エージェント・マロリー』Haywire 2011
ステイーブン・ソダーバーグ

メッチャ面白い!超素晴らしい!万人にオススメってより、わかんない奴はわかんなくていいよって映画だけど。70年代のコンパクトなスパイ映画とか好きな人は絶対見て!ソダーバーグのベストの一本!この人やっぱ嫌いになれない。

即物的アクション+スタイリッシュな映像って『ボーンアイデンティティ』一作目パターンだけど、主役が本物の格闘家だけあってアクションが本物&やりたいことがハッキリしてる。『ティンカーテイラー』の百万倍好き!

出口で偉い評論家さんっぽい人が「でもな、話が断片的でよく分かんないんだよな」とか話してましたが、全くアホかと。そんなのどうでもいいだろ!ソダーバーグは分かってて確信犯でやってるし、その代償としてあれだけ面白いものが見れる訳じやん!

『35杯のラムショット』35 rhums 2008
クレール・ドゥニ

年末のシネクラブ上映のため再見。ホンットに素晴らしい!ドゥニのベストの一本。現代パリ郊外を舞台に父親と一人娘を中心にした人情長屋ものみたいな作品ですが、だから傑作の前に現代社会のリアルな描写と映画史的作品の矛盾なんてものはないんです!

『35杯のラムショット』、サイトには英語字幕となってますけど、いや、決めました、今回も絶対日本語字幕付きで上映します!本当に素晴らしい映画です!泣きます!これ見て泣かない筈がないです!みんな見に来て! http://t.co/XMJthTiB

『追憶のマカオ』A Ultima Vez Que Vi Macau 2012
監督:ジョアン・ペドロ・ロドリゲス&ジョアン・ルイ・グエッラ・ダ・マタ

素晴らしい!ホンッとに面白い!ものすごくインテレクチュアルで野心的な現代映画なのに、同時にこちらの心を直接揺さぶるような感情と想像力に満ちあふれてる!ロカルノでやったばかりの新作を一足先に見ることができて超幸せ!

JPR作品はいつもそうですが、これはさらに高度な次元まで現代映画固有の形式性とより直接的な訴求力の融合が進められている!本当に面白い!一見何事も起きていないかのような日常的映像と音響の連鎖の中、信じ難いほどの密度で記憶と物語の断片が通り抜け、こちらの心をざわめかせる!

マカオに旅立ったキャンディという歌姫から、命を狙われている、助けて欲しいというメッセージを受けた主人公が、一人称の語りによってその旅の記憶を観客の前に展開させる形式。だからこれは、典型的なフィルム・ノワールであるわけですが、実際にそこで展開されるのは、ポルトガル人の視点から撮られた、かつての植民地マカオの映像的・音響的な即物的ドキュメンタリーであり、その内省と現実とのズレ。

だから、たとえばクリス・マルケルを思い出しても良い(実際、強烈な猫映画でもあります!)し、あるいは、アピチャッポンなんかを想起させる映像と物語の融合と乖離、そして都市の闇や人々の狭間、時間の隙間に断片として広がる記憶と想像力を二重写しに示しだそうとするきわめて現代映画的な試みが

そこで行われているわけですが、ただし、この作品がオリジナルなのは、その記憶が土地や風習に根ざしたものではなく、かつての植民地の夢であり、映画の夢であり、人類の夢の壮大な再生であり、同時に追憶であり、喪失であり、黙示録的な破滅をも予感させるものであること。

いや、想像して下さいよ。現代マカオの即物的な映像的記録の断片が、同時にジョセフ・フォン・スタンバーグの『マカオ』であり、ロバート・アルドリッチの『キッスで殺せ!』であり、それら濃密な物語的想像力から遠く切り離された現代を生きる私たち自身の肖像画でもあり、

そして何より、震えるほど魅力的でダイナミックな現代都市のパノラマでもあることを。

アピチャッポンの次の作品が、どこか『インセプション』を想起させるものだって話が先日流れましたが、いや、それはもう実現してます。『追憶のマカオ』こそが、それですよ!

より現代的で、よりアーティスティックで、より濃密に映画で、同時により映像的・音響的なダイナミズムとセクシーな魅惑に溢れた、現代映画バージョン『インセプション』。それこそが、『追憶のマカオ』という作品だと思います。ものすごく面白い。絶対見るべき!

『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』Greenberg 2010
ノア・バームバック

若い頃の失敗とか自意識過剰をこじらせて中年になっても世の中や他人との距離の取り方が分からない不器用な男のライフレッスン、というバームバックお得意のパターンですが、面白かった。微妙なズレを丹念に描くことにのみ注力した作り。

試写日記
『WIN WIN』WIN WIN 2011
監督:トム・マッカーシー

そういえば、『WIN WIN』(トム・マッカーシー)も見ました。これもバームバックなんかに通じる最近の米インディー系に典型的な作品で、タイトルはその通りでもあり皮肉でもあり、と言う微妙な距離感とニュアンスに全てが賭けられた作品。良かったです。ジアマッティは素晴らしい。

『ランパート』Rampart 2011
オーレン・ムーヴァーマン

素晴らしい!この監督は才能あると思う。ウディ・ハレルソン主演で、反時代的な自己破滅型刑事の物語。リアリスティックな描写が特徴ですが、最近流行りのそれではなく、70年代くらいにジョン・ヒューストンとかフライシャーがやってたようなあのライン。

だから、実際のところかなりスタイリッシュで、抑えたグルーミーな演出の中、風景も人の心も現実に痛めつけられザラザラに荒んでいく様を静かなタッチで捉えています。久々に本格的なアメリカ映画見たなあって気分で、ものすごく満足度高い。こういうのはちゃんと公開して欲しいなあ。

ムーヴァーマンは、『アイム・ノット・ゼア』の脚本で有名な人ですが、監督作はこれが2本目。処女作『ザ・メッセンジャー』も評判良いみたいなので、見ておかないと。ハレルソンの他にネッド・ビーティ、シガーニー・ウィーヴァー、ロビン・ライト、スティーヴ・ブシェーミと豪華キャスト。

あ、今調べたら日本ではDVDスルーで10月に出るみたいですね。こうやって取りあえず形だけ見られるけど、でも大きな話題にもならず右から左に流されていくのって、やっぱどうなんだろうなあ。『ランパート』予告編 http://t.co/KhUcNG5o

『ザ・メッセンジャー』The Messenger 2009
オーレン・ムーヴァーマン

大傑作!本当に素晴らしい!と言うか、これは今年見たアメリカ映画全ての中でもベストの一本。ムーヴァーマンは、間違いなく、次世代を代表する今最も注目すべきアメリカ映画作家の一人だと思う。骨太な作風で実に見事な演出力!

ある意味コンベンショナルな題材を扱った『ランパート』に対して、『ザ・メッセンジャー』は、より斬新であり、かつ、その抑制されたリアリスティックなスタイルとも密接に関わりのある題材が選ばれています。簡単に言うと、隠された戦争の隠された悲劇といった感じ。

イラクで負傷した主人公が、アメリカに戻り、戦死者の遺族に訃報を告げるチームに配属される。任務に厳格かつ私生活が放埒な同僚(ウディ・ハレルソン!)と対立したり、長く付き合ったガールフレンドが別の男と婚約したことを知るなどしながら、彼は様々な悲劇と悲劇に直面する人々をそこで見ていくことになる。

静かな、静かな、静かな作品ですが、それはむしろ、あまりに強い悲しみを堪えながらその場にただ立ちすくみ、一瞬でも気を許せば地面に崩れ落ちそうになるのをひたすら耐え続けるような、強い緊張と情動に引き裂かれ続ける作品だと言うべきでしょう。

一見リアリスティックに見える作風も、よく見ると、細部まで実に細やかな配慮が行き渡っていることがよく分かります。一瞬だけその私生活の断片がスクリーンに晒される遺族たちの佇まいから、彼らがどんな人間でどんな人生を歩んできたか、手に取るようにこちらに伝わってくる。

何を撮り、何を撮らないか。そしてどの瞬間にそれらを見せるか。こうした基本的な配慮と計算において、実に見事に演出された作品。役名さえ登場しない端役の顔立ちに至るまで、ああ、映画というのはこういう顔、こういう佇まいを見せるためにこそ存在しているんだと強く確信させてくれる。

主役のベン・フォスターとウディ・ハレルソンのコンビが本当に素晴らしい!サマンサ・モートンやスティーヴ・ブシェーミもとっても良くて、まあ、こういう監督の作品には役者はただでも出たいと思うでしょうね。故アダム・ヤウクのオシロスコープ社が配給。

『ザ・メッセンジャー』予告編 http://www.youtube.com/watch?v=1tTIQ8pkGf0&hd=1

IMDBには出てませんでしたが、もしかして、と思ってちょっと調べてみたところ、やはりと言うべきか、オーレン・ムーヴァーマン、思いっきり同世代でした。なんだろう。何かよく分かるんですよね、そのやりたいこととか狙ってる線とか。別々の国であれ、同じ世界と同じような映画を見て生きてきたからなのかなあ。

『ザ・メッセンジャー』ラストショットとかもね、あ、ここでカメラ引いてこの全景見せるんだろうな、とか理屈じゃなく皮膚感覚としてものすごく分かる。ああ、そうなんだよなあ、とか思いながら泣いちゃった。素晴らしかった。とりあえず10月に国内DVD出る『ランパート』みんな見てね。

『狂気の行方』My Son, My Son, What Have Ye Done 2009
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク

ヘンなエイガ~(笑)いや、超面白かったんですけどね!なんでこんな中途半端な妙ちくりんなよく分からないところをピンポイントで狙ってくるんだろう、この人は、という。後期シャブロルにもちょっと通じる部分ありますけど。

なんて言えば良いんだろう、超絶技巧のダンサーが中途半端な姿勢で家の戸棚修理する姿ずっと見させられると言うか、豪腕の格闘家がさほど小さくもない針の穴に糸通したり抜いたりする感じというか、音楽的素養もセンスも兼ね備えた世界的ピアニストが力一杯ハモニカでミ吹く感じというか(笑)。

あっちにもこっちにも行ってしまわない奇妙に中途半端な辺りでフワフワ漂いつつ、でもそれがものすごく緻密に計算されているようにも感じさせられるのって、うーん、ある年齢以上の映画作家に特有な面白さだとは思いますが、これ、説明してもなかなか分かってもらえないかもしれません。

コメディでもないしシリアスでもないし、まあ、言ってみればそれが人生とかの重みであり軽やかさでありってあたりの熟練ぶりですかね。アラン・レネとかジャック・ドワイヨンまで、最近のはこんな感じですよね。ああ、爺さん、面白いわ!

『アンクル・ケント』Uncle Kent 2011
監督:ジョー・スワンバーグ

マンブルコアを代表するスワンバーグ作品で、たぶん日本のデジタルで撮られた自主映画と同じかそれ以下の規模で作られてる。いわゆる映画らしい映画では全くないし、嫌いな人もいるでしょうが、私は面白いと思う。

一匹の猫と暮らす40歳の独身アニメーターが週末にビデオチャットで知り合った女の子を自宅に招待する。彼はセックスを期待するが、彼女の考えは少し違っていた、という感じ。大きな物語や突飛な登場人物は一切登場せず、いかにも私たちの周りにいそうな人々とその生活をYouTube的な映像で切り取っている。

こういうの、でも、日本だとその淡々とした背後に大きな物語が、とか、誰もが共感できる深い悲しみや大いなる孤独が、とか、あるいは逆にものすごく露悪的に作ったりしがちだと思うのですが、そうしたドラマ的想像力や誇張、卑下などとは完全に無縁。
ただし、YouTube的な日常の映像と日常的な人々を、しかしどうすれば映画として面白い見世物にするかということはすごく考えていると思う。

その距離の取り方が絶妙で心地良い。だから、最後まで本当に何も起こらないけど、楽しく見てられる。こういう映画的な野心の持ち方も、私は十分アリだと思ってます。だって、実際面白いんだもん。独身中年男性の恥ずかしい日常への踏み込み方・距離の取り方もちょうど良いし。
YouTubeを暇つぶしの時間にダラダラ見るのはアリでも、それを映画館で見るのは全然面白くない。でも、YouTube的世界を土台として、その中で絶妙なスキルを持って作られたスワンバーグ作品を映画館で見るのは結構面白い。そんな感じ。

ベッドの上で中年男性とそこそこ若い女の子が、まあ、二人ともそこそこ普通に不細工で、さらに別の相手とコンピューター越しにビデオチャットしながらセックスの話したり、マスタベーションの方法について話し合ったりする。
こういうカジュアルとプライベートの間の絶妙な空間への潜り込み方って、本来、この規模の自主映画が得意とすべき世界である筈なんだけど、実際にはなかなか見ないんだよね。しかも、この作品のように悪くない映像と音響と編集のセンスで作られているってのは、意外にありそうでないんです。

『アンクル・ケント』みたいな映画のあり方って、みんな見ておいた方が良いと思うよ。実際面白いし、気分良い映画です。『アンクル・ケント』予告編: http://www.youtube.com/watch?v=ZByMoOkyzas

因みに、日本だと、こないだ桃まつりで見たあまのっちの作品なんか、なかなかセンス良い部分あると思ったんだけど、同時にやっちゃいけないこともいっぱいやってる(笑)。センス良いのを作れる人はたまにいるんだけど、その中にセンス悪いもの絶対に紛れ込ませないって人はあんまいない。

何でかって言うと、後者に必要なのは知識とか教養とか人生経験とか、そういう面倒くさいものだったりするからですね。

でも、映画のゴージャスさ(映画はそれ特有の方法で常にゴージャスでなくてはならないと思うし、それは自主映画でも同じこと)って、結局<面倒くさいもの>に担保されてると思うんですよ。それなしで映画は作れないし、それ見えずに映画語ってる人の話は絶望的につまらない。

エルマンノ・オルミの『時は止まりぬ』とか、めちゃくちゃゴージャスな映画だからね!

『熱い血』Hot Blood 1956
監督:ニコラス・レイ

再見。この内外共に社会情勢喧しい時期になかなか味わい深い作品だとおもう。アメリカで暮らすマイノリティ(ジプシー)一族の話。約束の地の夢を語りつつ、一族を率いる責任を負う兄と、アメリカ文化に親しみ、そこから逃げ出そうとする弟。

神話的な兄弟の対立の話であり、いわゆる大きな物語の一つですが、それを弟と勝ち気な女性詐欺師との恋愛のさや当てに置き換え、いろいろ誤解も対立もあるけど、男と女が直接向き合って相手の魅力を認めれば、それはまた違った話になるよって持って行き方が好ましい。

話の流れはかなりギクシャクしてるし、数少ないセットも安作りが目立つんだけど、肝心な場面では絶対外さないのがやっぱニコラス・レイ。アメリカ文化との愛憎の果て、コーネル・ワイルドがお偉いさんを殴ってしまう場面の窓ガラスを突き破るダイナミックなアクションシーンとか、

あるいは、彼が去りゆく「妻」のジェーン・ラッセルを口説こうとして追いかけ、ラッセルの方も冷たいそぶりを見せながら実はまんざらでもないってあたりを、彼女が乗っている車の速度で表現したりとか、いずれもきわめて映画的な発想に満ちた素晴らしい場面でした。あれ見るだけでも十分価値はある作品だと思う。

『アッテンバーグ』Attenberg 2010
監督:アティーナ・レイチェル・ツァンガリ

実は、たぶん嫌いだろうなと思って見始めたのですが、意外に面白かった。いや、途中ややだれるものの、かなり面白い。最近、各国映画祭で話題のギリシャ映画で、『ドッグトゥース』(籠の中の乙女)周辺の女性監督による作品。

簡単に言うと、『ドッグトゥース』+(内省的)『ひなぎく』あるいは(貧血気味)『北の橋』って感じでしょうか。ツァンガリは『ドッグトゥース』のアソシエイト・プロデューサーで、あちらの監督ヨルゴス・ランティモスは、この作品に役者として出演しています。

まあ、この辺の人たちが国際映画祭で話題になるのは明確な理由があって、つまり文脈がハッキリ分かるんですよ。ブレッソンとかからダルデンヌ兄弟に至る、一見リアリズムに見えるけど、実のところ即物的な映像と音響をスタイリッシュさに結びつけたところに本領のある作風があって、

これは非常に影響力強いんだけど、同時に抑圧的でもあって、ダルデンヌ兄弟は勿論面白いんだけど、映画祭を中心としたサーキット全体で見ると、その優位は貧困化をもたらしかねない。これを全く違った作風へと単に置き換えるのではなく、一旦受け入れた後に乗り越えようとする試みというのがあって、

たとえば私は嫌いだけど、ハネケなんかもその一人でしょう。それをもっとカリカチュアしたのが『ドッグトゥース』で、悪意ある題材とか、露悪趣味とか、ワンテーマの抽象性とか、場所や人間関係(家族)の閉鎖性の中でそのスタイリッシュさを今風に作品へと造形している訳ですが、

ただ、これらに比べて『Attenberg』が面白かったのは、つまり被写体が道具じゃないんですよね。幾らでも置き換え可能な仮の対象ではなく、そこに具体的肉体があり、それにカメラが魅了されている。映画って、やっぱカメラの前にあるものに対して、命を持たないレンズやフィルムが

まるで恋しているかのように見える瞬間があり、その揺れ動きの面白さがとても重要じゃないかと思うんです。で、『ひなぎく』とか『北の橋』はまさにそうしたカメラの心の揺れ動きにこそ美点があった作品で、「ドン・キホーテ」的な魅力に溢れていましたが、

この作品もまた、基本的な方向こそ「ドン・キホーテ」の真逆で、内省的な作風だとは思いますけど、ただ、被写体を前にした率直な心の揺らぎが見えるという点では、それらと共有する部分が大いにあると思う。その意味で、これはかなり面白い作品だと思いました。

あと、余談ですが、若い映画監督は、こういうの勿論絶対見てなきゃダメですよ。いま世界で何が売れてるか知らなくて、自分で売れる映画作れるはずないじゃん。

『アッテンバーグ』予告編 http://www.youtube.com/watch?v=2zbd_rnbeqA

『グレイヴ・エンカウンターズ』Grave Encounters 2011
監督:ザ・ヴィシャス・ブラザーズ

ああ…、くっそつまんなかったけど、自分で分かってて見ちゃったんだから誰も責められない(笑)。ブレア・ウィッチ系のお化け屋敷ものですが、恐ろしいほどアイディアが何もなくて、たったこれだけで映画作ろうと考える勇気が一番怖いな。

なんか、たまに見たくなるんですよね。どうしようもなくつまらない今どきのジャンル映画ってものを。予想通りつまらなかったから満足すべきなのか?でも、この空しさは何?(笑)字幕なしで見たから英語の勉強になって良かったと考えよう。

『気違いピエロの決闘』Balada triste de trompeta 2010
アレックス・デ・ラ・イグレシア

明確に自分の趣味ではないんですが(笑)、でもかなり面白かった。立派だと思う。現代的な映画のいろんな方向性とは全く別個に独自の進化を遂げた作風で、こういうのが今成立してるのがすごいですね。

もうちょっと枯れて、テーマ的にさらにうまいことまとめて来た頃にカンヌのグランプリとか獲っちゃいそうな気もする(笑)。

『不良少年たち』The Delinquents 1957
監督:ロバート・アルトマン

アルトマンの長編処女作!いわゆるアルトマンタッチの群像劇ではないし、その作家的特徴を探してもあまり意味ないと思いますが、不良少年ものとしてとても良くできていて面白い。低予算の小品ながら、しっかりした構成と俳優の演出ぶりが見事で飽きない。

不良グループのリーダーが偶然知り合った好青年を気に入って何かと面倒を見ようとするが、そのグループのナンバー2が嫉妬したことから事件が始まるって物語で、上映時間の割に筋立ては結構複雑。なのに、その捌き方が見事で、端役に至るまで登場人物全員が個性的で印象に残る。このあたりはアルトマンらしい。

この時代の不良ものでたまに出てきますが、この作品でも隠された同性愛的主題が底部に見え隠れする。俯瞰ショットを多用して映像的にも見応えあるし、不良グループを物語として否定的に描きつつ、映画としては明らかにそのエネルギーへと好意を寄せているのが良い。

ファーストショットがバーで演奏する黒人バンドだったというのも、アルトマンのフィルモグラフィを彩る逸話として覚えておきたいです。面白かった。

『レッド・ステイト』Red State 2011
監督:ケヴィン・スミス

ケヴィン・スミスとホラーというすさまじい食い合わせの悪さ、それにタランティーノが2011年のベストテンにリストアップしていたことも含めて興味あった作品ですが、まあ、やっぱケヴィン・スミス作品だなあって感じです。

セックスで頭がいっぱいの若者3人がカルト教団に捕まって一人ずつ命を狙われる、というあたりまではよくあるパターンのホラー映画で、さすが監督キャリアもそこそこ積んでるだけあって悪くない部分もそこそこあるのですが、そこから後はひたすら期待の裏を斜め上に狙い続ける超展開(笑)。

タランティーノやコーエン兄弟なんかのラインを狙ったんでしょうが、うーん、どうかなあ。エンドクレジットで、キャストがセックス、宗教、政治と分けられて並べられていたのは笑いましたけど、だから、そういう映画ですよ。観客の予想を裏切る妙な展開をパズル的に楽しんでね、的な。

アメリカでの嫌われ方がものすごいので(笑)、その意味で見ておく価値はあるかもね。ケヴィン・スミス以上でも以下でもないと思いますが。

『地獄の掟』Private Hell 36 1954
監督:ドン・シーゲル

製作と出演を兼ねるアイダ・ルピノが共同脚本も担当。2人組の刑事物で、アクションに始まって、張り込みもの、最後は心理サスペンスへと移行する異色作。展開はスムーズとは言い難い面もあるが、個々の場面は緊迫感あってさすがに面白い。

開放的な競馬場から入り組んだトレーラーパークまで、ロケーションの魅力も素晴らしい。低予算ながら、かなりの野心作。『風と共に散る』のドロシー・マローンが刑事の妻を演じていて印象深いのと、ダイアローグ・ディレクターにサム・ペキンパーの名前があった。

『ハリケーン・ロージー』Temporale Rosy 1980
監督:マリオ・モニチェリ

これはすごい!!すごいなあ!もう、すごいしか言いたくないくらいだけど、ホントすごい!メチャクチャ面白い!まるっきり『カリフォルニア・ドールズ』じゃん!日本未公開だから知られてないと思うけど、二本立て上映するならこの映画しかありえないってくらい!

モニチェリがジェラール・ドパルドュー主演で仏伊合作で撮った映画ですが、『カリフォルニア・ドールズ』の一年前の作品で、なんか驚くほど似てます。ドパルデューが拳痛めて引退したボクサー役なんですが、彼が恋に落ちる相手が女子プロレスラーでアメリカ人のフェイス・ミントン。

で、ドサ回りの女子プロレス興行とその家族的共同体を中心に二人の恋のさや当てが描かれていくのですが、あの巨大なドパルデューよりもさらにハリケーン・ロージーことミントンは大きくて、彼が軽々とダッコされてキスされたりするんですよ!(笑)

お色気ベッドシーンとかなると、もうベッドと言わずリビングと言わず、部屋中ムチャクチャに破壊しながら半裸でもつれ合うし(笑)。とにかく、ハリケーン・ロージーがすさまじすぎ!ちょうど70年代から80年代に差し掛かる頃の貧乏くささと下世話さが混じり合った、あの独特の場末感も最高だし。

見てこれ、最高でしょ? bit.ly/THXsAz

これも! bit.ly/THXRmJ

ハリケーン・ロージー!!! bit.ly/THY5tZ

いやあ、これ、日本でたぶん知られてない作品だと思うけど、勿体なさ過ぎです。本当に面白い!『カリフォルニア・ドールズ』と2本立てで絶対見るべき!破壊的な愛という言葉が、これほど物理的かつ肉体的な暴力を持って映画のスクリーンに描かれたことがかつてあったか!?(笑)

空間のダイナミズムを最大限に活用したマリオ・モニチェリの演出も圧倒的に素晴らしくて、この人は本当にすごい映画作家だと改めて思い知りました。正直言いますが、『カリフォルニア・ドールズ』より上ですよ、これ。モニチェリ、本格的に見なきゃダメだ!

黒人ボクサーの名前がクンタ・キンテとか(笑)。いいなあ、適当で。『ハリケーン・ロージー』のコスチュームを担当したジャンナ・ギッシのインタビュー見つけたので貼っておきます。抜粋場面をちょっと見られます。 youtu.be/X3HCfLQOpCc

ドパルデューは最初から最後までずっと情けないフランス男で、ボクシングの元ヨーロッパ・チャンピオンなんだけど、女子プロレスラーの方がずっと強くて男っぷりが良いという(笑)。彼をボコボコにしたボクサーを、待ち伏せていたハリケーン・ロージーがさらにボコボコにするという場面も。

『ハリケーン・ロージー』最高! http://crazy80.c.r.pic.centerblog.net/068df68e.jpg

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