TIFF2012 day4-5

『スギヤ』ガリン・ヌグロホ
オランダや日本に翻弄され支配されてきたインドネシアの独立を主題にした国民映画で、画面造形的にも群像劇としての物語の構成上もヌグロホの作家的特長をベースにしているとは思いますが、『目隠し』では決して描かなかったような、いわゆるベタな場面を中心に物語が展開していくので、正直、ある種の日本映画の大作を見ているような気分にはなる。国内向けの「お米」としての映画だとは思いますが、もちろん、クラシックなつくりはそれなりに堂々としたものですし、ローアングルを多用した画面構成も見応えある。内容的にも、バジェットの面でも、これは意識的な選択でしょう。それはそれで一つの映画のあり方だと思うので否定はしませんが、わたしは『目隠し』のほうがずっと面白かった。タイトルロールのスギヤプラナタ司教がほとんど偽のワントップで、主人公としても語り手としてもほとんど機能させていないこと(彼のスピリットを映画化したって感じ?)とか、あと国民映画として作りながら、どの国家にもどの民族にも絶対的な正義の視点を置かない主題は普通に素晴らしいと思います。

『ヒア・アンド・ゼア』アントニオ・メンデス・エスパルサ
アメリカでの出稼ぎから戻ってきた父親が、しかしメキシコの片田舎で家族とともに暮らすことの困難に直面する様を、静かなタッチで描いている。家の前の急な坂道の造形的な面白さや、人々の抑制された複雑な感情が時間とともにゆっくりと熟成され説得力ある実態として私たちの前に展開していく部分、そしてそれを可能にした演出力や粘り強さに、この作品の最大の美点があると思う。とりわけ、ラスト近くで再び出稼ぎに行った父親のことを話し合う二人の娘の姿を長回しで捉えた場面は、広いガレージの隅の壁にぴったり寄り添うような二人の姿も含め、すばらしい場面として強く印象に残った。ただ、作品全体としては、『木曜から日曜まで』と同様の弱さを感じる。それはたぶん、何をすべきでないかに敏感ではあるが、そこからの自分の一歩を強く踏み出せていない映画に対する不満と呼べるかもしれない。

sidebysidetrailer『サイド・バイ・サイド』クリス・ケニーリー
フィルムからデジタルへと変遷する映画が抱える問題を、さまざまな視点から多層的に俯瞰した作品で、上映や保存といった視点よりも製作者側の問題が中心になっている。ソニーが総力を結集して開発を進めたCCDカメラの家庭への普及に始まり、それが映画業界にまで影響を及ぼしていったさまを歴史的に振り返る中で、たとえば全編デジタルビデオで撮影されたドグマの一連の作品がいかに大きな衝撃を与えたか、など、興味深い発見も数多くあった。(日本では疑似ドキュメンタリー的な手法がどうって議論がほぼ全てでしたよね?)デジタルカメラの発展、解像度を中心としたその表現力の高まりと合わせ、実際にそのカメラで撮影された映画の場面を見ることができるのは、本当に勉強になった。また、フィルムからデジタルへの移行は、単なる技術の変遷にはとどまらず、最終的には映画という概念の変容を迫るものともなる。選ばれた作者による特権的な表現としての映画=フィルムから、万人が自由にアクセス可能なツールとしての映画=デジタルシネマへ。ここでは勿論、その変化に反発する者と、その変化を積極的に受け入れようとする者が出てくるのは当然の話であり、ハリウッドという特権的な場所のイデオロギーとして、やや前者に心情的に荷担しているニュアンスが強いことも作品に対しては指摘できるかもしれない。ただ、一方で後者の象徴としてレナ・ダナムを上げる辺りの目配りの正しさを見ておく必要もあると思う。(というか、レナ・ダナム公開すべきでしょ!)また、映画という概念の変容は、こればかりではなく、映画=記録から映画=造形という側面も強いとは思うが、これまた作品の前提からして、前者の思考が考慮されているとは言えない。ただし、これらについては、また別の「サイド・バイ・サイド」が作られればそれで良いのだと私は思う。全体としてきわめて明解でポジティブな作りになっているのも、とても好ましかった。キアヌ、偉いな。映画好きは必見の作品だと思う。

Le-journal-de-France-Raymond-Depardon『レイモン・ドゥパルドンのフランス日記』レイモン・ドゥパルドン
フランスの街角の様々な風景にカメラを向けるドゥパルドンの姿に始まり、彼がいかにしてカメラを手にし、自らのスタイルを発見して、キャリアを形成してきたか、彼自身と妻のクローディーヌ・ヌーガレの語りによってゆったりとした時間の中、結晶化させていく作品。ひょうひょうとしたドゥパルドンの姿と同様、作品的にもフワッとした作りが次第に一つのまなざし=世界へと向けられるドゥパルドンの好奇心へと結実していくのが素晴らしい。全体的にものすごく面白い映画だと思うが、ややガチャガチャした印象もあるのは、ヌーガレのある種の野心がそこに介在するからかもしれない。

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