TIFF2012 day6

『ハンナ・アーレント』マルガレーテ・フォン・トロッタ
題材や物語、そしてその扱い方は素晴らしいと思う。早稲田の授業でレネの『夜と霧』を見せたばかりなので、早めにDVDが出るなら是非学生に見てもらいたい。ただし、演出的には全くパッとしたところがなく凡庸で退屈。撮影がカロリーヌ・シャンプティエだとクレジットで知って違った意味でビックリしたくらい。イスラエルにおけるアイヒマン裁判の傍聴記録を執筆するアレントと、その後の騒動を描いた作品で、アイヒマンを記録映像によってのみ作品に登場させたのは、根源的な悪に加担した人間の正体を描くという主題から必然のものであり正しい判断だと思う。で、その幾つかの短い映像がその他すべての場面よりもはるかに面白いものであったという。ただし、バーバラ・スコヴァは名演だったと思う。ラスト近くの講義でのスピーチには素直に感動した。作品的な価値判断は別にして、今の日本でこの作品が公開されることの意味は高いと思うな。

Yellow_a_l『イエロー』ニック・カサヴェテス
『ヤング≒アダルト』にも通じる主題にもう少し背景=主人公のトラウマ的過去を持たせ、というのは作劇上は逆だろうけど、まあそれをささくれた現実のリアリスティックな描写で見せるだけではなく、ポップでハッピーで極彩色のギミックの数々で見せていく、ということはつまり、実際のところはたいへん陰惨で出口なしの地獄を描いた作品。ニック・カサヴェテスとしては新機軸で、なかなか頑張ってるとは思いますが、ちょっと性格の生真面目さが出ちゃってるかな、という気がしないでもない。『ラヴ・ストリームス』の驚きは…、とか言うのはちょっとアレか。でも、次作にも期待したい。メラニー・グリフィスとレイ・リオッタのモンスターぶりがすごい。前者は55歳だぜ!ってのと、後者はなんてこの人はこんな間抜け以外の何ものにも見えない役を見事に演じるか!って意味で。

apres-mai-14-11-2012-1-g『5月の後』オリヴィエ・アサイヤス
アサイヤスによる『5月の後』は、この作家のファンにとって、まず同監督の代表作の一本である『冷たい水』をすぐさま想起させるものだろう。時代背景の共通性は勿論、とりわけ主人公の最初のガールフレンドが登場する幾つかの場面(エンディングを含む)は、ダイレクトにこあの作品を連想させるものだ。しかし実際のところ、両者は全く異なる映画である。主人公の心情にピッタリ寄り添い、彼が生きた時代を共に駆け抜けながら、叙情的な色使いでキャンパス全体を塗りつぶそうとした『冷たい水』に対し、『5月の後』は、時代の熱狂に対して、そしてさらには主人公に対しても一定の距離を取りながら、その若さ、傲慢さ、率直さ、偽善ぶりを裏表問わず見事な構築と場面配置の中で余すところなく描き出しつつ、その堅牢な建築物をカメラという「風」によって自在に吹き抜けてしまおうと試みる作品だと言って良い。したがって、もちろんこの作品の主人公と『カルロス』の主人公に対して、アサイヤスの心情的な距離感は全く異なっているに違いないが、にもかかわらず、この両者はやはり似た作りの作品となっているのだ。そしてそれはまた、そのスタイルの形式性が作者のナルシシズムの反映ともなっている(これは決して悪いことではない、むしろ逆だ)ミア・ハンセン=ラヴの『グッバイ・マイ・ファースト・ラヴ』とも全く異なったものである。『カルロス』と『5月の後』という素性も上映時間も作者との距離感も全く異なるであろう2本の作品を、あたかも同じ素材を扱うかのように撮り上げるのが、アサイヤスの現在なのだ。

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