早すぎた人々

まず理念として、映画批評はアートだと私は思ってます。それはつまり、それそのものとして面白いし素晴らしいのであって、何かの役に立つ必要はないし、役に立たない。もちろん、映画を見たりその批評に触れることで、映画を見る目が養われるし、観察眼や思考力が鍛えられるし、それらを通じて人生が豊かになる可能性はあります。でも、それは映画批評の本質じゃないし、現状リアルな問題として、それはむしろ逆になってる場合の方が多い。でも、映画批評にはそれ単体として価値があるのだから、これはいささかもそ価値を貶めることにはならない。

ただ、私個人としてはこれで良いですが、一方で、こうした言い分は決して社会的に成立しません。それはつまり、映画批評は孤独で報われない仕事であり、世に言う「仕事」や「職業」とは絶対ならないということです。でも、それだと映画批評は存続しないので、様々な形で別のものの上に乗っかり、社会的な責務や役割を果たしてきました。あるいは、言い換えるなら、それらを口実として存続してきました。ところが、その口実の殆ど全てが現在機能不全に陥りつつある。その歴史的過程と社会的原因についてもここで詳述することが出来ますが、あまりに膨大になり煩雑なので割愛しましょう。重要なのは、今や映画批評はがすっかり裸にされてしまっているというリアルな事実です。羽があったとしても、羽を休める場所がない。

映画批評もまた言説と呼ばれる活動の一部です。そして、言説が社会的に機能するためには、その送り手と受け手の間に壁や差異があり、そしてそれらが乗り越えられた先には未来ないし未来の幻想が機能している必要があります。ここで、まず壁が崩れ差異が消失した。いや、本当のところ、いまだ壁も差異も存在しています。でも、それはもはや受け手に対して説得力のある理由、惹き付けられる魅力の源泉とはなっていないのです。そしてそれは、その後の問題、つまり、未来ないし未来の幻想が機能していないという問題と密接に関わりを持っています。だから、もし映画批評がアートとして自ら一人のためだけに存在し、自らと共に消えて行く運命であることを受け入れないのであれば、言い換えるなら、現在まで続いてきたその口実を何らかの形で継承し、あるいはバージョンアップし、あるいは別のものに置き換え、その映画批評という歴史ある活動を社会的に継続させる気があるのであれば、問題はここにあると思います。

ところで、映画ないし映画批評を取り巻く人々には、現在三つの世代が存在しているように見えます。有り体に言って、それは、逃げ切った人々、逃げ切れなかった人々、遅れてきた人々です。逃げ切った人々はラッキーだと言うべきだし、逃げ切れなかった人々は残念でしたで良いでしょう。私個人は、その残念な世代かもしれません。でも、遅れてきた人々に対しては、ただ残念でしたじゃ済まない。それは、逃げ切った人々、逃げ切れなかった人々が自らの責任としてそうしちゃいけないと私は思う。遅れてきた人々を、むしろ何かをこれから立ち上げ始めていく人々へと変えなくちゃいけない。そこから生まれる主体的な未来を創造しなくちゃいけない。変わるのは勿論彼らですが、自分たちの責任としてその手伝いと準備をしなくちゃいけないと私は思っています。そのためには、自分たちが早すぎた人々へと変わる必要もある。

そしてそれは、そんなに難しいことではない。適切な知識と実力と実行力とビジョンを備えた試みの幾つかがあれば、必ずそのどこかから未来が開けていくはずなのです。しかも、その試みの一つを維持するのはそんなにコストのかかるものではない。大きな箱を作ったりする必要はありません。実際の話、バイト代数人程度のものですよ。だから、逃げ切った人々、逃げ切れなかった人々が少し寛容になり、自分たちが手にしてきたものとは違う未来の存在を信じ、そこに賭け、そこに投資してやろうという気持ちが多少でも生まれれば、未来は簡単に生まれるはずだと私は思っています。

まあ、現実的にはなかなか難しいんですけどね。もう終わった顔をして去って行こうとする人達に、いやいや、私たちのものではない未来のためにもう一肌脱ぎましょうよ、その懐からもう一度財布を取り出してくださいよって声をかけるわけですから。それはそんなに簡単なことじゃない。でも、それはやっぱり諦めちゃいけない。諦めずに頑張ろうって思う。

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