『ザ・イースト』

the-east-01カルト教団映画が面白いのは、そこに組織論が如実に投影されるから。つまり、資本主義社会の趨勢とは異なる価値をいかにして組織の中で共有し、維持し、実際に行動へと移すかって方法論。そして、これが映画において特権的な主題となるのは、それが映画作りそのものだからだね。

『マーサ、あるいはマーシー・メイ』や『トップ・オブ・ザ・レイク』のホリー・ハンターは、普通に人間性を備えた人たちの真ん中に得体の知れない幻視者のような人物がいて、実質的に何か行動しなくても、その存在そのものが負の中心となり触媒として機能して暴力性が生まれるってパターン。

黒沢清の『カリスマ』はモロこの組織論をそのままシナリオにしたような映画だった。と言うか、基本的に日本は殆どこれだと思う。オウム的、あるいは映画美学校的組織論。「刻刻」なんかもそんな感じ。で、これってエリート主義なのよ。本当は。エリート批判のエリート主義。

理論を構築し、理念としてそれを唱え、実際に行動して組織を引っ張るエリートではなく、その不在あるいは否定を体現するような存在の周囲に人々が群れ集ってくるってパターンで、だから構造としては基本同じなの。

例えば日本だと作家主義って概念は評判悪くて、すぐに批判が来るんだけど、でも、組織論としての映画作りには悪い意味での作家主義的旧弊を残している部分があるように見える。作家主義を実質的な検討なしに毛嫌いすることで維持されてきた作家主義的な旧態依然としたシステムがあると思うのよ。

お前はエリートで他の人間より優秀だと思ってるだろ、だからお前は馬鹿だって言われて、すっごい頭良いはずの連中がコロッと麻原に騙されちゃった訳でしょ?で、そこで生まれたのがおっそろしくエリート主義的なカルト集団。この問題はやはり真剣に考えるべきだと思う。だって繰り返すから。

一方、ザル・バトマングリ&ブリット・マーリングの前作『サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』は未来から来たって自分で言う得体の知れない教祖が中心にいるんだけど、物語が進んでいくと、実は彼女は何か妙なこと言ってるだけで、それを組織の形式に落とし込む別の人間がいるって見えてくる。

監督とプロデューサーの関係、マルクスとエンゲルスの関係かな?あれは三部作として作られる筈の映画の第一作だから、まだその提示にとどまってるけど、すくなくともカルト教団映画における組織論の深化は見られるし、日常と異なる映画的価値をどうやって生成させるかって問題がそこにある。

彼らの新作『ザ・イースト』は、そこからさらに進んで、組織の中心にはボス的な人物がいて、最初こいつが全ての中心のように見えるんだけど、実際には大した影響力持ってないってことがここでも見えてくる。ボスの隣にその思想をさらに幼く暴力的に先鋭化させた小柄な女性がいて実は彼女が重要。

その幼児的暴力性を体現したような人物を『ザ・イースト』ではエレン・ペイジが演じてるんだけど、彼女見てるとものすごく腑に落ちる。だって日本の70年代に先鋭化した左翼学生運動そのまんまじゃないかって感じがするし。組織が実際にどう作られ、どう動いているか鋭い認識があると思う。

『ザ・イースト』は、もちろんカルト集団の暴力性とエリート主義に対して批判的な立場を取るんだけど、日本みたいにエリート批判のエリート主義ではない訳ね。その実際の仕組みを冷静に分析しようという構えがある。

そしてさらに、資本主義社会とは異なる価値に人々が目覚めることを、こうしたカルト集団の暴力性から切り分けて救い出そうとしている。理念VS社会的価値というマップの中で、これだけ視野の広さと思索性を保ちつつ、それを骨太なスパイ物語の形式に落とし込むってのは結構すごいことだと思う。

あと、『ザ・イースト』のテロリストたちって、実はみんな超お金持ちのお坊ちゃんお嬢ちゃんだったってのがだんだん見えてくるのね。でも、彼らが唱えた主張には確かに骨があって、そこに全く別の場所からやってきた人間が肉付けして別の形で受け継いでいくって構造になってる。これも鋭い。

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