「映画は見世物である」から始まるあれこれ

「映画は見世物である」という定義に対し先日私が書いた疑問について、もうちょっと。映画は見世物か?まず、これは必ずしもそうとは限りません。なぜなら、見世物として大成功した作品より、それより見栄えせず観客も少なかった方が人の心に深く残り映画史に刻まれる場合も多いから。

あるいは、殆ど誰も見ることのできない、すなわち見世物としてそもそも成立していない作品が映画としてとても大きな力を持つという不思議なケースもあります。「映画は見世物である」という定義を絶対なものと思い込んでしまうと、こうしたダイナミクスが見失われてしまう。

では、映画とは何か?「映画は映画である」。この同語反復が唯一正しいようにも見えるかも知れません。しかし、ここにも問題がある。つまり私たちがそう断言するとき、それが見世物である、科学技術である、芸術である、現実である、浮薄な現在であるという様々な可能性が意気阻喪するから。

だから、まずはここから始めるべきだと思うのですね。まず、映画は映画である。そしてそれと同時に同じ重要性を持って、映画は映画以外のものでもありうる。それは、見世物でもあるし、文化でもあるし、芸術でもあるし、娯楽でもあるし、それらとは逆のものでもあるかもしれない。

ただし、ここで一気に多様な可能性を開示してしまうと、それらが単なる漠然とした全体として曖昧に放棄されてしまう。とりわけ、日本というのはそういう国です。だから、私たちは常に「映画は○○である」という言葉が口にされるとき、同時に映画は非○○かもしれないと考えるべきだと思う。

例えば、ゴダールが「映画は1秒間に24コマの真実だ」と言って、それに対してデ・パルマとかが「24コマの嘘だ」と言ったという話があって、こうした時、私たちはそのどちらか(とりわけ最近の日本では後者)のみを正しいものとして主張しがちだと思う。

でも、やっぱりそれは違う。両者は同時に存在するから意味があるわけです。あるいはさらに言うと、ゴダールの言葉にその弁証法が既に含まれている。ゴダールという映画作家は大きく言うと編集(嘘)によって自分の作品を作るタイプのシネアストです。それがああいう言葉を口にすることに意味がある。

弁証法ってのはポストモダン以降とても評判の悪いものの考え方の作法だと思いますけど、でも、弁証法を否定した後、私たちはそこで豊かな多様性の側に行くことができれば良いですが、現実にはとてつもなく単一のファシズムの側に行き着きがちな訳ですよ。私たちの現在がそれを証明してる。

あるいは、個人的な話ですが、冨永昌敬が「亀虫」をDVDにしたとき、私はそのライナーノートで彼のリアリズム性みたいな話を書きました。これも同じことです。冨永昌敬はどう考えてもフィクション性の強い作品を作る作家ですが、そう断じてしまうとそこで見えなくなるものがたくさんある。

だから、敢えて逆に考えてみるのはとても重要だと思うのですね。敢えて冨永昌敬をリアリズムの作家だと考えてみる。映画は見世物じゃないと考えてみる。映画は映画じゃないと考えてみる。こうした弁証法を通じて私たちはそこから先に様々な可能性が拡がっていることに気づく。

その可能性の拡がりこそが重要なのです。誰か偉大な映画人が「映画とは○○である」と口にする。そしてその言葉を唯一絶対なものとして信奉する人々がそれ以外の可能性を愚かなものとして排撃してしまう。これでは、映画はあっという間に滅んでしまう。この映画という言葉を日本に置き換えても同じ。

映画とは何か?その問いかけというものは、それに一度答えを与え、しかしまたその正解だと思える答えに対して自ら敢えて否定を試み、別の可能性に置き換えていくという一連の作業と時間の中でのみ意味を持つものなのだと私は思います。

あるいは、自らを否定しにやってくる他者を受け入れる。それも同じことだと思います。そして、批評家というのは、しばしばそういう存在であろうとする者のことだと私は思いますね。それは、映画とは○○であるという心地よい断言が支配する空間に否定と逡巡による時間を導入する。

もちろんここでまた、いや、映画批評家とはそうした存在ではないのだって否定が併置されるべきなのですが(笑)、まあ後は以下同文と言うことで。

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