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映画雑記100709

christmas_in_july『七月のクリスマス』プレストン・スタージェス

見るの何度目でしょうか。
見る度に感動する。
こういう作品見て、アメリカとアメリカ映画と映画のことを大好きにならない人間がこの世に存在するとは信じ難いです。
コーヒー会社の広告コンテストに応募した青年が、友人に騙されて一等賞もらったと思い込むことから始まる騒動を描いた作品で、68分という上映時間からも分かるように、きわめてシンプルな構造になってますけど、それでも素晴らしい場面がギッチリ詰まってる。
監督処女作にして、スタージェスの美点を既に存分に味わうことができます。

賞金を受け取りに来たカップルを祝福しつつ集まってくる女性秘書たちの表情とか、青年が幸福をお裾分けしようと車に贈り物をいっぱい詰めて地元の隣人たちのところに行く場面とか、ああいうのはもう問答無用に感動するし。
無際限な幸福感に満たされた場面の背後に、軽くシニカルな冷静さを漂わせる辺りのさじ加減も抜群。
塩をひと匙加えることでプリンは一層甘くなるというおばあちゃんの知恵ですよ(笑)。
こういうの、分かってる人少ないんだ。

広告業界と貧困にあえぐストリートの人々を対比的に描きつつ、信用経済の問題点を正確に射貫いている辺り、1940年の作品でありながら、完全に現代的なテーマを持つ作品だと言って良いです。
まあ、マイケル・ムーアの『キャピタリズム』というタイトルは、実のところ、プレストン・スタージェスのフィルモグラフィを形容するためにこそ使われるべき言葉であるわけですけど。
にしても、トップ掲載した写真の少女たちの表情見てくださいよ!
こんな素晴らしい顔が映画史から奪われて、一体どれだけの年月が経ったことでしょうか!

見てない人は今すぐ絶対見なきゃいけない。
今すぐこれ見て、この世界には映画とかアメリカ映画とかアメリカという素晴らしいものがあるんだと友達に熱狂的に話さなくちゃいけません。
そういう気持ちにさせてくれる映画です。
と言うか、毎年7月には『七月のクリスマス』かベッケルの『七月のランデブー』見ないとダメだな。

blind_date『狙われた男』ジョセフ・ロージー

これまた、すっごい低予算ですっごいシンプルに作られた作品。
59年のイギリス映画ですけど、飛び跳ねるようにバスから降りてきたハーディ・クリューガーがとある部屋に入ってジャズを大音量でかけるまで、完璧にヌーヴェル・ヴァーグとしか思えない画面展開にビックリします。
こんな溌剌としたロージー作品があったなんて、と驚いていたら、そこから後はいきなり濃厚にロージー節が炸裂するし(笑)。

簡単に言うと、オランダから出てきた貧乏で真面目で(女性にちょっと苦手意識を持ってツンケンしている)画家のクリューガーが年上のお金持ち女性にボーイハントされ、純粋な彼はすっかり舞い上がってしまうが、実は…、というような話。

殺人事件の容疑者となるクリューガーと彼を取り調べる刑事であるスタンリー・ベイカーによる縦の関係、そして、警察内部にも二重三重の階級関係があり、女性と男性の間にも権力闘争があって、といったような実に重層的な権力関係が網の目のように展開していく作品となってます。

まあ、そのあたりはいつものロージーである訳ですけど、その中で、どこか最後まで軽やかさが残るのがこの作品の特徴でしょうかね。
クリューガーとスタンリー・ベイカーなんて、なんだかルパン三世と銭形警部に見えてきますし(笑)。

フィルムノワールの定石だと、敵の罠が張り巡らされた場所にノコノコやってきた主人公は、必ず頭にガツンと一発食らわされて意識失ったり混濁していったりするものなのですけど、それが一切ないというのも大きい。
頭にガツンどころか、クリューガー君、警察に花さし出したりするし。
その辺りのスッキリぶりが、この作品をありがちなノワールから遠ざけている大きな要因になってると思いますね。

女性に関わると碌なことないよっていつものパターンの作品と見せつつ、でも、実はラストの背景で、あれれ、でも、この男の子はきっとこれからまた別の良い出会いをたくさん経験していったりするんだろうな、とか思わせる演出してますし。
ああいうのって、あらすじとか普通の映画紹介とかには絶対入ってこない(と言うか、気付いてさえもらえない)実に些細な部分なんですけど、実は映画にとって一番大切な部分の一つであったりもします。

重量級の多いロージーの中では、軽く楽しめるという実にめずらしい作品の一つです。
で、実際、すっごく楽しい映画になってる。
ロージー自身は、この作品から始まった2度目のブラック・リスト問題で大いに悩まされることになったわけですが、作品自体は奇妙な明るさと健全さに満ちてる。
とっても面白い映画です。

エア弁なう

いえ、語感面白かったので、タイトルに使っただけです(笑)。
最近twitter重くて、やや飽き気味なんですけど。
@UCL_HighLightアカウントの加藤未央さまが、やたらなうなう呟くのはかわいらしくてとても良いと思っておりますが。

あと、エア弁、何のことか分からなくて検索しましたとの報告多数受けましたが、みんな何言ってんだろう、もちろんM・ナイト・シャマラン監督の新作『エアベンダー』のことじゃないですか!
今後、この作品の略称としてエア弁使う際には、わたしの名前、きちんとクレジットするように。
昨日、ジャパンプレミアで見てきたって話です。

映画ですか?
ええ、わたしはシャマラン監督大好きですよ。
『レディ・イン・ザ・ウォーター』とか、素晴らしかったなあ。
帰り際、観客のリクエストに応えてサインする監督の隣を通り過ぎることができて嬉しかった。
エア弁について。
うーん、まあ、職業的見地からとりあえずノーコメントの方向で(笑)。

最近見た映画のこと書こうかと思ってたんですが、何見たっけ?
そうそう。
『ゾンビランド』。
とっても面白かったです。

『イカとクジラ』のジェシー・アイゼンバーグや『リトル・ミス・サンシャイン』のアビゲイル・ブレスリンなんかが出ていて、そこからも分かるように、最近インディペンデント系アメリカ映画で良く作られる「小さな物語」映画の魅力を、ハリウッドのジャンル形式エンターテインメントの中に取り込もうとした作品だと言って良いでしょう。
そして、その試みはおおむね成功していると言って良い。
ハリウッドの受け手側代表として、ウディ・ハレルソンやビル・マーレイといったマージナルな魅力を兼ね備えた役者を配している辺りも、たいへん気が利いてます。

と、いやまあ、なんともうまいことまとめるもんだ>自分(笑)

それと、スティーヴン・ソダーバーグの『ガールフレンド・エクスペリエンス』と『バブル』が面白いです。
相変わらず、メチャクチャなペースで撮ってる。
この人の作品については、個人的に奇妙な執着を感じていて、まあ、何度もその辺りのこと書いてますけど、またどこかで書くかもしれないので、これはこの辺で。

あと、ジェーン・カンピオンの『ブライト・スター』が圧倒的に素晴らしい。
これについては、現在発売中の「キネマ旬報」7月下旬号に書いてますので、是非、そちらの方をお読みください。
http://www.kinejun.com/

日仏のジャンヌ・バリバール特集では、マチュー・アマルリックの『ウィンブルドン・スタジアム』とペドロ・コスタの『何も変えてはならない』を見ました。
ペドロ・コスタについては、実は以前から思うところがないわけではないのですが、まあ、それもまたそのうちどこかで書くかも。

あとは忘れました。

告知100625

すいません、ワールドカップでボロボロです(笑)。
あとでもうちょっと詳しくフォローできればいいなあと思いつつ、とりあえず。

明日、6月26日(土)は、映画の研究会@早稲田[Lehrstucke]を開催します。
参加自由!
しかも無料!
学生だけでなく、社会人を含めいろんな方が毎回来てくれています。
今回は、北野武『アウトレイジ』とローラン・カンテ『パリ20区、僕たちのクラス』がテーマ。
毎回、熱い議論になってます。
興味を感じた方、是非ともご参加ください。
詳細は、こちらで。
http://lehrstucke.ecri.biz/

それと、本日、わたしの連載「資本主義社会のエッジを生きない」が掲載された「buku」最新号がリリースされます。
今回は、『セックス・アンド・ザ・シティ2』について書いてたりします。
そちらも、どうぞよろしくお願いします。
http://www.c-buku.net/

グレイ・ガーデンズ!

grey_gardens_01『グレイ・ガーデンズ』Grey Gardens 1975
監督:メイズルス兄弟

『グレイ・ガーデンズ』Grey Gardens 2009
監督:マイケル・サシー
出演:ドリュー・バリモア、ジェシカ・ラング、ダニエル・ボールドウィン

『グレイ・ガーデンズのビール母娘』 The Beales of Grey Gardens 2006
監督:メイズルス兄弟

基本的には、ゴミ屋敷に住む2人の老婆の話と思ってもらって良いです。
そのドキュメンタリー。
とんでもなく大きくて、とんでもなく荒れ果てた古い屋敷の2人の母娘。
修理屋の若い男の子ジェリー以外、訪ねてくる人も殆どおらず、無数の猫と、崩れ落ちた壁の中に住み着いたアライグマに囲まれて暮らしている。

…と書くと、それはまた一体どれほど悲惨な話だろうと思われるでしょうし、実際、『何がジェーンに起こったか』を連想させられないわけではないのです。
孤独に暮らす2人の老女。
過去の栄光を伺わせる周囲の事物。
ときにちらつく狂気の影。
そして、あまりにも悲惨な現状。

ところが、この映画の本質は、観客のそうした憶測とは全く逆の部分にあるのですね。
とにかく、彼女たち二人があまりにも天真爛漫で、あまりにも魅力的。
あまりにも明るく、そして、あまりにもとげとげしい。

PDVD_130カメラがあってもなくても同じだと言うことではありません。
しかし、カメラがなくても毎日同じように何千回と繰り返していたであろう彼女たちの会話、喜びと苦しみと怒りと楽しみをそのまま反映した彼女たちの会話を、そっくりそのままカメラの前で、しかもカメラがそこにある事実によって一層の喜びを加えつつ、繰り広げて見せてくれるのです。

この2人は、”リトル・イディ”・ビールと”ビッグ・イディ”・ビール。
映画の中で明かされますが、実は正真正銘のセレブです。
ジョン・F・ケネディの妻であったジャクリーン・ケネディ・オナシスの親戚。
子供の頃から何不自由なく育ち、歌とダンスと絵画と男たちの羨望のまなざしの中で暮らしてきた毎日。
ところが、ビッグ・イディの離婚と当時アメリカを襲った大恐慌の中、倹約という言葉を一切知らない彼女たちの生活は次第に困窮していく。

ニューヨークで女優になりたかったリトル・イディを呼び寄せ、母娘は「グレイ・ガーデンズ」と呼ばれる屋敷に引きこもってしまいます。
しかし、生まれてから家事というものの一切をやってこなかった二人。
二十年の間に、家は荒れ果て、ゴミはたまり、猫は増え続け、アライグマの糞は床に散らばる。
ついには、近隣からの苦情によって新聞沙汰になるほど荒れ果ててしまいます。

grey_gardens_02そんな彼女たちに興味を持ったのが、アルバートとデヴィッドのメイズルス兄弟。
二人は、グレイ・ガーデンズにカメラを持ち込み、母娘のドキュメンタリーを撮ります。
ニューヨークで女優になりたかったリトル・イディにとって、それはもちろん願ってもない話。
自らが作り上げてきた儚くも美しい夢の全てを、カメラの前で一気に披露します。

そしてさらには、彼女、ほとんどメイズルス兄弟と恋に落ちてしまうのですね。
いや、よく比喩としてカメラが女優と恋に落ちるとか言ったりしますけど、そんな生やさしいものでは一切ありません。
なにせ、リトル・イディ、マイクを握るデヴィッドとカメラを構えるアルバートを交互にじっと見つめながら、イニミニマニモ(どちらにしようかな)とかやっちゃったりするんです。
で、そのまなざしがあまりにもピュア!
そして、それを捉えるカメラも一切たじろがない!

これ、本当にすごいです。
大恐慌前の古き良きアメリカの夢を未だに生き続ける女性をカメラに収めたばかりではなく、彼女の瞳を通じて、ほとんどその夢そのものの実体化にさえ成功している。
映画がその被写体と恋に落ちるというのは、まさにこういうことなのです!

また、母娘で「二人でお茶を」などの名曲の数々を歌ったり、リトル・イディがダンスしたりといったミュージカル・シーンがふんだんにおさめられているのですが、それがもう実に素晴らしい。
プロフェッショナルなボイストレーニングを受けたという母親の声は年月を経ていまだに艶があるし、心の底から喜びを表現しているかのような娘のダンスは見ていて涙が出てくるほど。
その悲惨な生活とは全く対照的に、彼女たちの日常をとらえたこの作品は、ひたすら幸福に満ちあふれた輝かしい映画になっているのです。

PDVD_143そして、メイズルス兄弟によるこの作品、アメリカで大成功を収めます。
ビール母娘も有名となり、彼女たちの暮らしや言動、ファッションなどからインスパイアされた作品が次々と作られる。
映画公開から20年経った2006年には、同じタイトルでブロードウェイミュージカルにもなり、トニー賞まで受賞します。
ドキュメンタリー映画を翻案したミュージカルというのは、これがはじめてだったらしい。
この舞台はさらに、宮本亜門演出、大竹しのぶ・草笛光子の出演によって日本でも上演されました。

また、舞台を元にしたテレビムービーも作られる。
こちらは、ジェシカ・ラングとドリュー・バリモアが共演。
ドキュメンタリーが撮られた時期と、彼女たちが如何にしてこういう生活に至ったかという背景が交互に描かれています。
で、これがまた、オリジナル見てたら本当に泣けるんだ!

有名な場面がそっくりそのまま再現されるというばかりでなく、それを演じるラングとバリモアがめちゃくちゃ上手くてね。
そっくりなだけでなく、ここでもまた、ビール母娘への愛に溢れているんです。
たとえば、ジェシカ・ラングなんて、ビッグ・イディの(義眼のため)特徴あるまなざしとか発音の癖を見事に再現している以上に、彼女の持つ精神的な強さとか誇り高さとか、そうしたものを仕草の端々に感じさせる見事な演技を見せていて、ああ、これだけでもう泣けてくるなあ、と。

オリジナル見てない人がどう思うかは分かりません。
でも、メイズルス兄弟の作品を見た後であれば、これ絶対泣くと思いますね。

そして最後に、メイズルス兄弟自身による続編が2006年に作られました。
弟のデヴィッドは87年に亡くなっていますので、これは兄のアルバートが当時撮影していたフィルムをあらためて編集したものです。

PDVD_132ここでは、ビール母娘のまた別な側面を楽しむことができるばかりでなく、オリジナルに登場していたジェリーという修理屋の30年後の姿まで見ることができます。
75年版と負けず劣らず、きわめて感動的な映画であったことは言うまでもありません。
たとえば、ぼや騒動とか。
やばいです。
あれは…、どう見ても…

ビッグ・イディは、オリジナル版が完成した翌年この世を去りました。
彼女の死後、リトル・イディはグレイ・ガーデンズを売却し、そのお金で世界を回り舞台に立つ夢まで叶えた後、2002年に亡くなっています。
しかし、35年前に作られた『グレイ・ガーデンズ』は、今でも全くその輝きを失っていません。
何度見ても涙が出てきます。
いつ見ても、そこには愛が感じられます。
カメラが恋と夢を実体化してとらえてしまった、奇跡的な瞬間がここにはあるのです。

ありがとうございました100613

本日、横浜日仏学院シネクラブにお越しくださった方々、どうもありがとうございました。
前回よりさらにたくさんの方に来ていただけて、びっくりしました。
嬉しかったです。
どうもありがとう。

ただ、トークの方は、いつものように準備しすぎのため仕方ないとは言え、予定していた内容の3分の1も消化することができず、ひたすら残念でした。
しかも、今日の場合、早く帰ってW杯アルゼンチン戦を見なくてはいけない(笑)という個人的な思惑もあったため、無茶な延長もせず、終了後は急いで家に帰ってしまいました。
トーク内容などで質問等ございましたら、申し訳ありませんが、メールなどでいただければと思います。
すいません。

因みに、わたし宛にメールを送るには、このページ上にあるメニューから「NETWORKING」「CONTACT」と選んで、表示されたフォームに入力していただければ届くはずです。
よろしくお願いします。

次学期のシネクラブは、8月の夏休みを挟み、7月と9月に開催します。
今回は、女性映画監督特集です。
7月は、現在『あの夏の子供たち』が絶賛公開中ミア・ハンセン=ラブの処女作『すべてが許される』、そして9月にはアニエス・ヴァルダの『5時から7時までのクレオ』を、こちらは日本語字幕付き35ミリプリントで上映予定です。
どうぞ、よろしくお願いします。

7月24日(土)18時
『すべてが許される』Tout est pardonne, 2006
監督:ミア・ハンセン=ラブ

9月11日(土)18時
『5時から7時までのクレオ』Cleo de 5 a 7, 1962
監督:アニエス・ヴァルダ